水火
【水火】
水火、ふたつ性がまざり
あぶなさがうかぶ
ぬれてそこがただ炎える
くるしみともされるが
すがたにこそそれがみえ
かげろってはゆれる
ゆれてあるなしのさかい
あいまいなとおさを
ほらあなのようにおぼえ
ひとのひろがりのする
迎え火がこわくなる
うしろには呼び水もあって
海髪
【海髪】
ゆめのなかではふつう
風をみることがない
事物はうちからとよみ
ただ閉塞をみたす
それでもあるときは
手に風をもってくしけずる
みだれをきわめようと
ふきあげたものは線
へだたりがひとにかよう
ふかくひめられている
寂光あまたにも泣き
海髪へ手をそわすゆめ
非有
【非有】
晩夏のむこうへうかぶ
あきつとはことばだろうか
みはるかすとおくにあり
あるかなたがしめされるが
もうかたるべきではない
地の水をやしなおうと
かちいろのつまにもなる
けれど夕風よろしく
そこからよそへゆくだけだ
ひう、非有と尾をひいて
うすやみはひかりのふたえ
あれこそ線とあこがれる
朝顔
【朝顔】
あさがお帰りをした
ひらくことをあまた視て
このからだもみはった
あおやむらさきがきれい
天童のつかう小用器に似て
つゆのときがしばしある
あさがおのゆくえおもうと
つるこそが問となり
あけぼのへきえかかる
世はみな露台だろう
くさぐさのなかで
あさがおにむけ、めしをくう
遠近
【遠近】
ほおづえはからだとすがたに
ぼんやりと遠近をつくる
つくられた穴こそとおいのだ
星々たがいのへだたりが
とおくあらわれるのとおなじ
ほおづえもしぐさの配置で
ゆっくり箔がめぐる
かんがえがじぶんとは
どんな星座なのか
片頰からほどいた手を
かがやくやんまへかざす
またもゆっくり箔がめぐる