ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

水女

 
 
【水女】


めっきり水がつめたくなって
へびの口からでるものも
ぬれた冬枯れになった
それは下におちるときすでに
からだのようにつらなり
しぶきとなってやっと
めざめてうつつへすりかわる
おんなの落下に執しているのだろうか
みるもの一切にいろがなくなり
うつろをぬけるかたちにまでなった
 
 

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2011年11月30日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

 
 
【ら】


巻かないキャベツの歌を唄う
ららら巻いたキャベツのにくたらしさが
おまえのらんじゅくしたわらいなら
畝ごとおまえを踏んで
きりたちのぼったわたくしすべてを
来世に縦にしばりつけるための
浅漬けの朝にしてやった

夢見ているのかとしきりに訊かれるので
ららは幾度でも来るとこたえた
 
 

2011年11月28日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

降嫁

 
 
【降嫁】


階段をおりてゆくと
花嫁になれるのだという
それは移動の恩寵ではない
からだのなかの骨格がうごき
ひそかに連動をして
腰のあたりにばら色を
あふれださせるくだりなのだ
それでもしゃがむ踊り場で
あおいからだが鍵盤の
あつまりになることがある
 
 

2011年11月27日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

鳴く

 
 
【鳴く】


いったい鳥の喉笛とはどんな
ひびわれた貝がらなのだろうかと
鳥の暴発しそうな奥行きをみている
うろこにみえる羽毛といい
ぜんたいをらでん細工と名づけるのに
こちら側には貝いち枚の躊躇いもあって
それがみる者のおもさを鳥に変えるようだ
鳥とすごした余韻を空に転ずると
跣が翔び、古代が現れていて
こころではない胸は鳴きつづける
 
 

2011年11月27日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

ジミ・ヘンドリックスの歌詞三つ

 
 
火曜日の授業のため
ジミ・ヘンドリックスの歌詞を三篇訳した。
以下−−



【ウィンド・クライズ・メアリー】

トランプのジャックが整理箱に戻り
道化たちがみなベッドに就くと
しあわせが夜の通りをふらつきだすのが聴えるだろ
その足あとは赤いドレスをまとっている
それで風が「メアリー、」と囁き声をだす

憂鬱が陰気に掃ききよめる
砕け散った昨日の人生を。
どこかで女王が啜り泣いている
どこかで王は女王なしにいる
それで風が「メアリー、」と泣き声をだす

信号はあすには「進め」の青に変わり
ぼくのベッドを虚無でかがやかせるだろう
砂州はながれに消えてゆく
なぜってそれらの生きてきた生とは死だったから
それで風が「メアリー」と叫びあげる

吹き渡る風が記憶を蘇らすことはあるか
むかし自らが吹き抜けたもろもろの名を。
老齢となり知恵の杖をつきながら
風はこれが最後だと囁き、
泣き声で「メアリー、」と呼ぶ



【ワン・レイニー・ウィッシュ】

黄金の薔薇の渦巻く夢をみた
そんなに大昔のことじゃない
青みがかった霞と屍骸もみえた
それらはイメージのなかで古びなかった
魂の樹木の下にはきみがいて
やすらかな睡りに落ちていた
きみの手にはひともとの花が握られていて
そこからぼくを待ち受けていた
ぼくはきみをちゃんと見つめたことがない
これまでも、いまだって
でもきみは睡りから醒め、笑い声でぼくの名を呼ぶ
きみはまさにそれでぼくのこころを盗み去った
ぼくのこころが盗まれて
どこかへ消えてしまったんだ

黄金の薔薇、黄金の薔薇、黄金の薔薇
それはぼくのみた夢にすぎない
でもぼくはそれをひとに話すのが好き
夜空は千の星にあふれかえり
太陽が山の稜線に接吻して空が青みがかる
11個の月が虹をこえて奏でだし
音楽はきみとぼくのうえに響いてくる



【クロス・タウン・トラフィック】

きみはおれのクルマの前方に飛びだした
おれがクソ忙しいって知ってるはずなのに
おかげできみを乗せ94マイルも走らされちまった
おまえはいう、「すごくキモチいい、苦痛も消えちゃうし
でも、ひと乗りだけイキたかっただけよ
あんたなんて街なかの運送サーヴィスみたいなもんだもの」
きみに分別つけさせるなんて土台ムリ
運送屋っていわれても、きみとひとっ走りしたくない
運び屋っていわれても、きみの仕出かす全てがおれをグッタリさせる
それでおれはべつのやりかたでクルマを流そうとした
おれだけがヒット・エンド・ランで非難されるわけでもあるまい
で、車輪をきみの背中じゅうに乗りあげた
できることならきみをもっと悦ばせたかったんだ
でもおれの信号が青からヤバい赤に変わるの、わかったろ
おまえといっしょだと渋滞で前にもすすめやしねえ
こんどはきみのほうが街なかの運送サーヴィスだったわけさ
運送屋っていわれても、きみとひとっ走りしたくない
運び屋っていわれても、きみの仕出かす全てがおれをグッタリさせる
だからおれはべつのやりかたでクルマを流さなきゃならない
ああ、運び屋はあれやこれや用心する
外を知れよ 分別をつけろ
運び屋はあれやこれや用心する
運びは外ばかりみて気もそぞろ
用心しな
運び屋、用心しな
通りにはなにかが待ち構えている 突っ切るんだ
運び屋、用心しな
 
 

2011年11月26日 日記 トラックバック(0) コメント(0)

落下傘

 
 
【落下傘】


「壇上で女優、というつもりが
受容、といいちがえてしまい、
この錯誤こそをエレガントだとおもった。
いつも受容とはスカートのかたちに似ていて
これは地上からひかりの碧空をみあげ
その天心に無があるとする直観にもつうじている」
だれかのまことしやかなそんなかたりをきき
なにかとおりぬけているこのささやかな午前が
神性につらぬかれているよろこびもわいた。
もう日傘の淑女たちの姿はここにないけれど
 
 

2011年11月26日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

妖怪

 
 
【妖怪】


しつもんたろう、が
やぶれた皮のなかみはどこだと
おおごえをだしている
ぶちまけちゃった
おぼえだけのこってるのか
たいへんなたたみのうえだな
なにもかもなくなっていることが
いまのおまえのゆうやけだよ
妙に焔めく部屋の埒じゃないか
風船はたしかにそこにうかんでいた
 
 

2011年11月26日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

 
 
【皺】


墓前 というのはすごい場所だ
それこそがほんとうの 前 だからだ
石や卒塔婆にむかいあって
彼岸とはかかわりない手狭さは
いったい身へのなんの苦労なのか
この 前 をひたすらちいさくするために
酒をかけたり仏花をささげたりするが
こちらのからだが囲いになるだけだ
いまやうらぎりを立つしろい足のうらも
のっぽらぼうのように皺をうしなう
 
 

2011年11月26日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

誤記

 
 
【誤記】


むかしのことをあんまりおもいだそうとすると
しぬことになるというのはうそで
おもいだそうとしてもおもいだせなくなるのが
しぬときで そのさだめはとてもかなしい
誤記ということがあって そこにも
おもいがけなくおもいでがうきあがっていて
あるいているときにはじつはあるきに誤記があり
そうなるとやむなくもたちどまってしまうが
あらわれたたちどまりにはあらゆるぬくみがふくまれ
ひかりのいろいろがとけてにじんでいたりもする
 
 

2011年11月25日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

にんじん

 
 
【にんじん】


こくもつのかおりをのこす
にごりざけをひぐれてのむ
きのうつわにみたしたものを
からだというよりさきゆきへ
ただかたむけてけしてゆく
にんじんといもをおろしたものも
かないたのうえでやいてみて
いえぬちがしゅにまざってゆくと
したしみがどこからうまれるか
わからなくなってゆくともだ
 
 

2011年11月25日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

渡り

 
 
【渡り】


鳥が。
まざるもののみちびきであることが
空にはよくあって
あの素白はよくみると
ゆれている画布だ。
鳥が。
みずからと他をまぜてながれ
ゆうゆうとしているすがたの専横に
血がにごってゆくこともあって
ゆれるススキからはそれらをまぶしむ。
 
 
 
 

2011年11月25日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

択一

 
 
【択一】


ひとけのない部屋に長居して
窓からわきあがるものをみていると
手もとが ふたながれの渓流になって
あわをふいていることがよくある
計画や解釈ということが
みずからをふたりにしているのだ
このとき背後ということばの
ばけものじみたひびきをおそれる
それでからだの蝶番のみへ気を集めて
ふた身をあわすべく考えはじめる
 
 

2011年11月21日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

秋のきらきら

 
 
【秋のきらきら】


むれあそびをして
秋野をゆるやかにわたってゆく
あのかたたちは雲めいて
とおめにはみえるかもしれない
よろずをめでることが
あんなにもしたたらすのなら
たがいに添うとはどんなねむりなのか
うつりながらこころねむらされて
ご覧、影のなかった組の内らも
いつかきえゆく者をわかちはじめた
 
 

2011年11月21日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

裏時計

 
 
【裏時計】


わかれをつげるとはここから
長い列をむこうにおくること
とおくきえてゆくそのからだが
たえながら尾を引く星であることを
自他の区別でいうなら
他にこそつげわたすことだろう
きみを追い天上へ視線の霜をおろせば
星辰も裏時計のようにめぐりだし
世にひとつということが巨きな
わかれのつつみにもなるのだという
 
 

2011年11月20日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

テレヴィジョンの歌詞

 
 
来週のロックバンド講義のため
ニューヨーク・パンクの雄、
テレヴィジョン=トム・ヴァーラインの
歌詞を翻訳した。
以前に訳していた二篇とあわせ
下に掲げておきます。



【シー・ノー・イーヴル】(『マーキー・ムーン』所収=以下同)

ほしいものこそを
いますぐ手に入れなきゃならない
それがすべて
いかなることより優先される
たとえば翔ぶこともやりたいこと
ひとやまを越えたい
跳躍をくりかえしくりかえし
障壁をこえるんだ
みんなわかっている(みえない)
自分の破壊衝動を(みえない)
この完璧な体感を(みえない)
そう、ぼくは・悪なるものを・みない
〔※三猿のうちの「見ざる」だ〕

かんがえが浮かぶ
ひとつのイメージが。
一艘のイカした舟がほしい
ふしぎなことにそれは海でつくられているんだ
きみの指摘はわかる
なかなかするどいじゃないか
たちまちうまく反応してくれたね
そのギザギザのビバップ喋りで

おもってないことはいわなくていいし
決定的なこともいわなくていい
そういうことごとを口にするなら
この部屋をおれはすぐ退場だ
だっておれにはほしいもの
いまほしいものがあるだけ
それがすべて
いかなることより優先される

おれは愛する者と荒れ狂って走りたいだけ
そこにぼくは・悪なるものを・みない
愛する者とともに未来だって
未来だってひきずりおろしてみせる



【ヴィーナス】

イカした玩具の夜には 通りがあまりに眩かった
世界は 僕の骨と皮のすきまのようにひどく痩せて見えた
別の人間が少し驚いてそこに立っていた――
とても活気づいている世界に直面して。
僕は墜落していったけど。
「憂鬱じゃないかい?」「いや、全然」「エーッ、何で?」
僕が墜落していったのがまさにミロのヴィーナスの存在しない腕の中だからさ

ホラ それはなんだか新種のドラッグみたいだ
僕の感覚は鋭く 僕の両手は手袋のようだ
ブロードウェイはとても中世風に見えた
それは小さな書物のページさながら パラパラとはためいてもいて
僕は数々の舞台を踏んだ友達とともに ひっくり返って笑った
それが僕の気分だった
「憂鬱じゃないかい?」「いや、全然」「エーッ、何で?」
僕が墜落していったのがまさにミロのヴィーナスの存在しない腕の中だからさ

突然 僕の目がすごくとろんとして ぐらぐらしだす
苦しみがあることはわかっていた、だが苦しみに痛みがない
それからリッチーが――リッチーがいった
「よお、おまわりのように着飾ろうぜ
俺たちができることを考えてみろ!」
でも何かが――何かが告げた、「やらないほうがいい」
そして僕は墜ちていった
「憂鬱じゃないかい?」「いや、全然」「エーッ、何で?」
僕は立ち上がり、歩きだした――ミロのヴィーナスの存在しない腕をふりほどいて



【マーキー・ムーン】

おぼえている、
その暗闇がいかに二倍になったかを。
ありありと思い起こせる
稲妻はみずからに落雷したんだ
ぼくは聴きいった
ふりだした雨の音に耳を澄ませた
すると聴えてきたのだった
なにか別次元の音が

人生はぼくの夜を縮緬状に絞りあげる蜂の巣のなかにある
接吻で死に、抱擁で蘇生するめまぐるしさ
だからぼくは天蓋にある月のもとに佇み、ただ待機する
二の足を踏みながら。
……いや、もう待つのだってやめた

ぼくはひとりの男に話しかけた
その小道で
そいつに訊ねたんだ
「どうしておまえは発狂しないんだ?」って。
男いわく「若造よ気をつけな、よろこびすぎてもだめだが
まかりまちがっても哀しみにひたりすぎてはならん」

ごらん一台のキャデラックが
墓場からひきあげられた
それがぼくのまぢかに運ばれる
みんないうんだ、「乗りな」って。
乗るとキャデラックは
墓場のなかへ引き返し
ぼくとはいえば
またクルマから逃げださなければならなかった



【エレヴェイション】

最後のことばは
語られなかったと
きみはなぜそういわない?

今夜ぼくの眠りはあさく
渚を漂っただけだった
気が昂ぶってアタマが休まらなかった

きみはぼくを思い煩わせたわけではないが
助勢してくれたわけでもない
きみはぼくをからかっただけだった
それがひどくこたえたのさ

今夜ぼくの眠りはあさく
渚を漂っただけだった
気が昂ぶってアタマが休まらなかった

ぼくらの唇は封印をくらったがそれでも吐息は炎上していた
低い水温で荒れる海がぼくらをただ旋回させた
でもぼくは浅い眠りを寝た
〔そうして海底に潜ることなく〕渚を漂いつづけた



【ガイディング・ライト】

僕は――僕は夜に属しているのか
今夜――今夜だけは。
淑女たちはすべて
室内に集う
時は凍結し
世界は泣くだろう
今夜も騒がしく過ぎてゆく
囁きも大声も聴いた
だが誰も助けを求め叫びはしない

教えてくれ 誰がこんな
悪名高い贈り物
を送りつけたのか
そんな約束をするために
そんな間違いをやらかすために
ああ 厭だ
欺瞞を引き寄せられない
突き傷なしの
薔薇なんてありえない
でもそれをどのように言うべきなのか教えてくれ
僕は昨日起きて
今日再び同じ夜に直面するのか

※誘導灯――誘導灯
夜の奥へといざなう※

恋人よ 恋人よ
僕らは海のように別れてゆくのか
とどろく貝殻
漂流する落ち葉
すべての目論見は知られざるまま
今がまさに
玉座から腰を上げる時だ
すべてが経験済みなのに新しさを失わない
誰がやってくるのかに眼を凝らせ
こんな夜は再び来ないのだから

※-※



【プルーヴ・イット】

埠頭。時計。ひとつの囁き声が彼を起こす。
海水はまた匂いを放ちだした。
洞穴。ひかりの波。が夜から現実感をうばい
それが部屋に平坦な曲線を投げかける。
証明せよ。事実だけを。内密にうもれている
この事件を、この事件を。この事件こそに
ぼくはずっと取り組んできたのだ。

まずきみは這う
それから跳びあがる、百フィートほどの高みまで。
とおもったが、きみは深みにとらわれたままだった。
それならきみは聖書すら書けるだろう。
ちろちろ 鳥たちがさえずり
それがきみにことばをもたらす
世界はひとつの感触にすぎない、
きみが請け負ったところの。
よもや忘れてはいないだろう?

いまや薔薇が減速をかたどる
きみはそんな色味のない服を着て
サイコーだ、きみも人間の感覚をなくしはじめる
投影し、保護しろ
温かく穏やかで完璧な日
素晴らしすぎるを通りこした素晴らしさ
一本の指すらそのうえに置くことなどできない

審理終了!



【トーン・カーテン】

引き裂かれた幕のむこうから別の芝居がみえる
引き裂かれた幕の、何という暴露機能
ぼくは確信がもてなかった、いつ美が悪用されるのかを
引き裂かれた幕は嘲笑を愛した

涙――涙は歳月をさかのぼってゆく
歳月――歳月は涙のようにながれる
涙はその背後に歳月を湛えるが
ぼくは涙をけっしてながさなかった
これまで出会った歳月のなかでは

引き裂かれた幕がぼくに一瞥を投げ
引き裂かれた幕が発情にいたる
ぼくは傷ついていない、命綱を掴んでいたから。
引き裂かれた幕はぼくを巻いてねじりあげた

引き裂かれた幕に熊手以上にかきだされる気がする
引き裂かれた幕、いくら支払えばいいんだ、
おまえを炎やすためには

涙、涙――歳月、歳月……



【リトル・ジョニー・ジュエル】

ほらリトル・ジョニー・ジュエルがやってきた
クールきわまりないし
なにも決め込んではいない
思いついたことを次から次に語ろうとするだけ
考えをふかめれば哀しくなるし
気がちがってしまうことだってある
考えなんてものは表面を引っ掻くだけ

JJならゆかへのキスも辞さなかった
ヤツは展示中だったんだろうか
否、否、今日にかぎっては
ヤツはいつものように話さなかった
こういったんだ――「羽根飾り付きのアタマがほしい」
ヤツは夜にはうつらうつらするだけ
アタマのなかでは戦闘の感覚がつづいている
それで夢から跳ね起きる
だがまだ夢はつづいていたんだ……

それからヤツは空港へすっとんでいった
突撃のあまり轟音がひびいたほどだ
ヤツはフェンスのうしろにしゃがんだ
投光機に胴体まるまる照らされたためだ
それから
ヤツは失神した……

おお、リトル・ジョニー・ジュエル
クールきわまりない
万一あんたがヤツの困っているのをみたら
あんたは上司に相談しなきゃね
あんたは知る、ヤツは支払った
あんたは知る、ヤツは対価をちゃんと払ったと。
それからあんたがヤツにすべきことは
気前よくウィンクしてやることだけさ



【キャリード・アウェイ】(『アドヴェンチャー』所収=以下同)

きのうの夜、ぼくは埠頭まで漂流した
水は… 黒びかりしていた
雪もうすくふったが積もらなかった
ぼくは自分を縛るロープがゆるむのをかんじた
ぼくは溶解しだしているらしかった、灯台の光がまわるあいだに。
ぼくはこんなところまで運び去られたのだ。

かつてぼくは一艘の船をもち海図も所有していた
体内には風を湛えていた、樹が自らに樹液をめぐらすように。
それがいまや浅瀬の泥に身をしずめようとは。
ぼくはここまで運び去られたのだ。

あれらの部屋は凍え、いつも暗かったが、
そこでのぼくらは問題にもされなかった。
きみの金色の髪
きみの腕には稲光が走った、それからグラスが粉々になった

深夜が正午だった
だから日がおわらなかった
灯火がまたたき自ら悔いる――
ものみなはぼくが思い違いする以上のまぼろし。
ぼくはここまで運び去られたのだ



【ファイアー】

ひと夏を吹き渡った嵐。ぼくらは風のなかに棲み、
部屋も外に投げ出されかのように吹きさらしだった。
彼らが縛りつけたきみの手。
きみは解いてくれという要求が無駄と知っていた。
ぼくの舌はといえばブリキのようにガチャガチャ鳴った。
ぼくは繰り返し視認した。彼らがぼくの席を奪うのを。
きみの目。それが熱をもつことを辞めていると彼らは評した。
ぼくらはたがいにもたれあった、寒さのなかで。
息をころし、曲がり角から曲がり角へむなしく視線を泳がせた。

卓のうえには硬貨数枚、空中にはカードが散らばり
窓に映る顔はほほえみをかたどっていた。
ひと冬を吹き渡った嵐。ぼくらは幽閉されて
待機、目視、そして転落をしいられた。
通りの行き止まりで地平線が後退した
きみはそれを追おうと駆け、ぼくもきみに続こうとしたのだが。
眠りはもう眠りといえず、ぼくの目も見ることを繰り返すだけだった。
きみは激しい情をえらぶ。それがさらに見る、きみの泣くのを。
きみは泣き声をおさえた。ぼくもその閉鎖を聴いた。
それからぼくに聴えるものは木霊だけとなった。

空疎をたたえよ。
彼女の薔薇色のドレス。
それが彼女の動きで回転する。
すべては破砕されたが、何も失われていない。
ぼくらは自分たちの館に火を放った。



【マーズ】(『テレヴィジョン』所収)

おれには教育が要るんだろう
ぐうぜん夢みているあいだにこそ何かを掴まねば
むかしきみの声を聴いた
人工的な声だった、だがもう忘れてしまった

おれの腕のなかで彼女はぬくもり、滑らかになる
天国のようなうごきをしるすその骨格
(割れ目もうごきも、その心地よさといったら!)
おれは真実をさがしてくるう陰茎にすぎない
だがこれを捕まえるcopなら火星だ、火星産のようにすげえ

火の玉が空中でおどりくるい
それがいたるところに飛び火する
もえたぎる泡であたりがあかるくなり
一晩中おれの肌をとおして拡大される
起きろ! 珈琲を淹れようじゃないか
珈琲を
珈琲を飲む時間だってことだよ

きみのためなら何度でも逝けるさ
きみのためならひと晩に何度でも逝ける
 
 

2011年11月17日 日記 トラックバック(0) コメント(0)

根菜

 
 
【根菜】


このおわりちかい季節になると
根菜ばかりが地中からわいてきて
とりわけしろいものがなにかを
ひとはたましいにつるすことができる
さまよう池沼だってただごとでない
それらがずっとくるしいさけびを
ただふかさからつかんできたとして
ハスならなぜ空洞をもつのか(音楽?)
ぬれた場所に掘るひとが腕のようにならび
そこではたまゆらの井戸も次つぎみえた
 
 

2011年11月17日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

夜にあふれる

 
 
【夜にあふれる】


なにもみなくなった者のために
このからだに鈴をつける
――あなたはながれだし
ちりのゆきかうとおりとなって
すずしくおぼえる、といわれ
もう自分も歩行体をこえたとおもう
またたく星すらそのひとのために
みなこぼさず はこべそうだ
だから夜のあそびをしてもいいか訊く
その内気なひともしずかにうなづく
 
 

2011年11月16日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

魔物の貌

 
 
【魔物の貌】


ぼくの錯覚はぼくの魔物の貌をしていて
詩に適したものが中篇へと圧延されるとき
ことばの引力のなかにそれがひしめいている
ひとりが百人になる、場の無限定にあって
おもいえがく「ひとつこと」の結実が
一連のことばのつらなりにさしかわるのは
ぼくがぼくらになるようからだを売ることなのだ
そのようにおしげもなく星をつかいつくして
みずからのからだをひとに苦しくつげても
朝がくればまたぼくはくらい単体に戻るだけだ
 
 

2011年11月16日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

枯野

 
 
【枯野】


アンフェイスフル、と
おのれのゆびをふとよんでみる
りるりる修辞にもたげたこの悪心は
すぐになだめなければあとが
さみしく光りゆれるばかりだから
梯子のようなものをわが身につかい
円筒の口からみえる円筒の底を
しずかに龍のとぐろといいきかせ
あすにつづくその中断の枯野までも
慄然するともなくただみつめる
 
 

2011年11月14日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

馳走

 
 
【馳走】


まるやけになった顔で
そとみが奇岩のような
あおざかなをあがなう
骨にそって包丁をいれ
その一引きひと引きで
うかぶにくのあおさを
あわくもやしてゆけば
うすみのうすみどりも
ただ皿にささえられた
ゆうやけの食毒となる
 
 

2011年11月14日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

音型

 
 
【音型】


おとがたをおぼえ
ねいろにしずむひとの
はかなきものよ
ながれにおもいはよって
みずからのゆみの
みるみるとおくなれば
崖をしずかなひづめでおどる
鹿のおとだけがおとになり
その爪もやがてはおちて
みみのみがうつわをなした
 
 

2011年11月14日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

お知らせ

  
 
新宿K's Chinemaでいま大浦信行監督
『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』が
絶賛上映されていますが、
来週水曜(11/16)、その大浦監督と阿部が
壇上対談いたします。
18時からの『天皇ごっこ』の上映後、
19時55分から20時15分まで。
よろしかったら是非ご来場を。

『天皇ごっこ』劇場パンフレットも
ゴージャスで、とても充実しています。
論考は毛利嘉孝、福住廉、高木尋士、木村三浩、蜷川正大、
大浦監督との対談は鈴木邦男とのものが一本、
もう一本が阿部とのもので、これが長い(笑)
  
 

2011年11月12日 日記 トラックバック(0) コメント(0)

流行

 
 
【流行】


まぢかに性愛するふたつのからだが
対位法にまでただ支配されて
そのまま刻々と展開されてしまうのなら
それはじっさい音楽のなかに
もう感情がきえている不如意にしかないと
波打ち際でいうだけなのだろう、
消滅のよろこびをおもわないならば。
部屋に大鏡があるのを不吉だと
シーツに溺れながらどちらからともなく語る
あそこには不易のなにものもみえないねと。
 
 

2011年11月11日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

くちからぼろぼろ

 
 
【くちからぼろぼろ】


手をもて為す愛のむなしさで
つたもみじが煉瓦にゆれている
めをがひとめのせつなを盗み
くちづけする通路を
ひかりのひらきのように視た
がらす張りのまなびやへ
もりかわくんたちと入ってゆく
手なしびとのことばを
くちからぼろぼろ
くさりなすために
 
 

2011年11月09日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

武田肇の秋句

 
 
ご恵贈いただいた武田肇さんの第五句集
『二つの封印の書』をひもとく。

武田さんは詩もなし俳句もなすひとだから
詩的俳人の評価も罷りとおっているだろうが、
実際は「俳句知」がとても高い。

それが認識=配置の絢爛さではなく、
心眼の日本性にふれたときに、
ぼくは多く陶然とするようだ。

いまの季節を名残惜しみ、
秋の字の入った秀句を
以下、抜書きしておこう。




跫の足と音とに離〔か〕るゝ秋


うちくるぶしそとくるぶしも秋時雨


「或る時」てふ譚〔はなし〕の端〔はな〕や秋深し


世界中の道の総数あき深し


窪のこる後部座席に秋深し


森を出る人匂ふまで秋時雨


秋深きメビウス坂の出入口


行秋やむかし野方に「野方町」


秋の暮すくなくも吾は四人ゐて




ついでに「秋」の字の入らぬ、
素晴らしすぎる秋句もふたつ。


永劫に林檎うごかぬひるさがり


月を見て眼鏡を置かば月の音




事物ではなく、「春」「秋」のように
季節と季語が一致したなかで俳句が詠まれると、
それはとうぜんメタ的な季節論の風合いを呈する。
象徴性が事物句より上位化するといってもいい。

むろんそれは秀逸な場合のみであって、
月並に堕すとむしろ惨状を呈してしまう。

以前、武田さんを「春」句の名人と書いたことがあったが、
今回の「秋」句のはるかさもふかく胸を打った
 
 
 

2011年11月07日 日記 トラックバック(0) コメント(0)

 
 
【塔】


ひとつの朝からべつの朝へ
塔の場所を移動させる
すきとおるものをとおくに
たてたくて、そうする
これをまもるだけで
昼がすぎ、夜はしらない
夜はもっとちいさなものを
みまもっているだろう
けれど夜があければまた
うたうように塔がみえだす
 
 

2011年11月06日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

成仏

 
 
【成仏】


成仏がほとけになるってことなら
どんな即身仏も疣ていどでいいね
ってことが効率というものだろうか
みんな自分を長持ちさせるために
切り花にみたてたからだをこっそり
水きりくらいはしてもいるはずで
疣が瘤になるまでは日をひそんでいる
切り口をくすぐるという成語さえあるか
やけどもたらすねそんな愛しかたは
さする切るそれで離れたものが成仏さ
 
 

2011年11月04日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

魚影

 
 
【魚影】


鰓にかざるものは
ほのおから得たものだ
それが水中を分割し
あたりに風を起こす
閲覧をこころみようとしても
めくれない頁が海にあり
これを行為の軸にして
たがいに離れゆくこともできる
われわれはわれわれをいきるためだ
魚影さ、しょうがない
 
 

2011年11月03日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

うたひめ

 
 
【うたひめ】


そのからだにたてごとをつり
まがぼしのかこいにはいれば
まもののなさすらちかわれて
こよいのこよいであることが
ただおわるまでのらちのなか
やみにうたいつがれるだろう
しずかなこえがそのめぐりに
きえるかいなかのみかづきも
とざすまなざしがひきうけて
まぼろしはわかれゆくだろう
 
 

2011年11月02日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)

にわとり

 
 
【にわとり】


に、にわとりは一羽ではない
ワという音にかさねはなれて
ふるえているまにまの日のひかりに
おどるほどにもうごきまわり
羽が尾がくびが折れゆれて
かたちがただれするどい眼が
なびいているほかのなにものだにいなみ
そのいなみまたほのおにつつまれれば
たまごのしずみをてずからこえる
にわとりの内情もただの一羽ではない
 
 

2011年11月01日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)