ほぼ
【ほぼ】
ほぼというおばけがいて
ほぼそんざいするとかけば
およそそのおもかげがしれた
そのかみはものさしのめもりの
はざまなどでうめいていたが
いまでは夏木立そのものを
夏木立にあっていなみつくす
おそろしいなにかとなった
炎暑が景ではなくゆれにみえ
おおむね伽藍というときの
じゃばらめいた象限を
列のひとりながらゆきかう
すこしうたいながしたが
もうわたしもなくて
ほぼが、略が、のこってゆく
タブララサ
【タブララサ】
うつくしいひとなら
まなざしを眼であらわすが
すぐれたモデルは
からだで視線をつくる
白紙がかおにあらわれきえ
その律動がたましいや
ゆうれいにみえたりもする
からだとかおのかくめい
そんざいひとつがあり
それだけでめぐりが
ふかいふちのようだった
けれど表情のタブララサへ
やはりまなこはさだめられる
いまみているよるの点を
うみの破船とおもわすために
不穏
【不穏】
ありがちな男とおんなとなり
菖蒲池のほとりをゆけば
ぼやける像もみなもでうごき
さかさのわたしらをとおみする
まなざしまでかんじてしまう
愛のため、ただ動静していたが
ふたしかな同道はすがたを
しぐさへ溶かしてゆめのようだ
つましく二幅でとおすこと
七曜のふしぎとまざりあって
うしろにリラがしろく咲き
ひとり欠けだしたときの
不穏さえついにえがかれて
池はみずからをとおくゆらした
すあし
【すあし】
あしゆびがきみわるいのに
すあしのひとをうるわしいと
かんじるのはなぜなのか
はだしがどんなあしはらを
さまよったかに歌がともない
その音階を、さまよいのたまを
ささえたいとねがうゆえだ
このてのひらにのせれば
かかとはほねのすずを
ひかりちいさくひびかせて
地にそらがおりたときの
醜の反転、あのかげろうが
ひとよりもしろくうかがえる
まがり
【まがり】
ひとの眼はかならず
けしきからはなれているが
彎曲のあるところでは
それすらあやしくゆらぎ
かつてあった、がひとの
つどいにみえることがある
裏地をきれいとおもえば
ぬのをまとう善き者も
はだかなのかすきまなのか
わからなくなるように
ゆきさきの彎曲には
けしきの裏地がすかしみえ
うきよにないものがひろがる
花あまた、けむりあまた
まがりにあらわれてなけた
他界の水
【他界の水】
生が目的に出会ったときの
卓のうえの手のかたちを
ゆうぐれのわたくしは知る
ゆびはひかりがかさなるため
円陣をしずかに組んでいるのだ
エリ、エリ、からだにある
おのれでないところには
ふかい河川がえぐっていて
かすみがかる地のきずは
ながくみおろすにあたいする
なみだめのみずからを
うしろからおおいつくす
ひととつうじるちかいもして
けれど他界の水と語らった
鞭
【鞭】
視線はゴムひものように
のびちぢみし、こちらへからみ
イヌのひとみからゆれている
愛着とたいくつしかない
みしらぬものへのおきかたに
ちくしょうのながさもあり
いのちでさえおっくうだ
ゆうぜんというべきがなになのか
風はおこりゴムひもがまたゆれ
はられつくしたあいだをたわんで
一斉がゆるやかにしんくろする
とっさにおもいでをそむけると
たいらかなぜんたいに鞭がひびき
つつましさよりまずしかった
穴なるものらがかえしうたれた