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ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

そうでない者

 
 
【そうでない者】
 
 
わたしのかずがすくなすぎる
なにしろひとりしかいないとみえる
 
なんのみずべだかわからないみずべを
わたしとそうでない者がならびゆく
そらのいろにみなもがかがやくと
そうでない者のほうになるようだった
 
あさくなってことばをかわした
入水すれば死にくわれるそのとき
わたしは生身いがい水死人にもふえる
ふたつはからみあってしずんでゆく
 
そんな充実をつたえようとしても
みずはすぐにまぶたをとじてしまうと
 
しかり、死の床でもしぬまえを
かたりえないのがさいわいだ
すくなさなど無量の別称にすぎず
ひとつのいまわのあらわれには
 
そうでない者がすでにながれている
 
 

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2019年06月30日 日記 トラックバック(0) コメント(0)

雨の望遠

 
 
【雨の望遠】
 
 
はらわたはちかくでかんじ
とおくでは透くのがゆかしい
 
おしむものはすこしずつ
ふる雨とみわけがなくなる
しぐさあり天をみあげたそれも
 
みえない垂線あまたに
きえるまでつらぬかれる
 
あるからないへの
うつりはなまなましいが
まぶしいように
ぴったりしないのは
 
境をゆれているこころが
 
やがてうすむらさきを
にじんでしまうこと
 
ひとつしかないのに
はなればなれに
あふれていること
 
 

2019年06月27日 日記 トラックバック(0) コメント(0)

オリオン

 
 
【オリオン】
 
 
ひとりぐらしのすまいでは
ぞんがい把手はふれられない
せかいの半回をみちびくための
ごくささやかな突起なのに
ようなしにはあまりとみられる
 
あさまだきのいっとき
なかで詩水を汲むことがある
まっくらながらあかりする
井戸の家と、とびらにかいた
おおかたはやさしい白湯で
俗塵をあらいながすだけだが
 
つるべをあげるにんげんは
よなよな連星のかおりがして
どうさとはさだめだろうか
 
おそれて三博士がさわるのは
ひとつの参をまたたかせる
ものしずかな把手なのだから
そのまわりにも四辺形の
うすいかざりがあってよい
 
 

2019年06月24日 日記 トラックバック(0) コメント(0)

それら

 
 
【それら】
 
 
よりかなしみがますように
どうぶつのすがたはかわってゆき
厚真犬などがそのきわみとして
造型のもんだいをけぶらせる
 
それらはすこしかなたにいて
たとえばきたないトラ毛が
なんの二元なのかをつきつける
 
すでにせかいがそうなっているが
これをからだにきざむざんこくなど
からだにゆるされていないはずだ
けれど詞と歌のかんけいに似て
そとみがあらわれになぞかけをする
 
とおりぬけるものは文身さながら
可視のつかれをもつと問わずがたり
 
むしろすがたをけすやさしさが
すがたじたいになるとも敷衍して
それらはたがいにひろがってみせた
 
 

2019年06月18日 日記 トラックバック(0) コメント(0)

欠ける

 
 
【欠ける】
 
 
目的格を狂わせねばならない
枯れたあやめ並べた寝床で
きみをねむる、というように
 
百日はこえるだろう身熱の
はじめに萎れを置けば
とおくからやってくるものも
すでにわたしにあったはず
 
ただそんざいをしんずるため
すがたをおがむのではなく
 
そのものの体内感になることで
ときをたゆたっていた静けさまで
ひととわたしの包みにかわる
 
このあたりではほぼ蟬が鳴かない
翅の絵をかく日に起きだそうとして
ひかりを透けたふくろとみれば
すがたの欠けた半鳥も野にあふれ
 
くちずさむ身すらきみをねむる
 
 

2019年06月14日 日記 トラックバック(0) コメント(0)

かけら世の

 
 
【かけら世の】
 
 
やがて負うこととなる死因が
ひとを生誕よりさだめして
 
いまわはとおい貝のあわせだ
 
めつむってこそなみだぶくろも
苦をおさえかえす部位だったのに
 
かおにうまれるきしへ
いってみたいまなざしが
おもいのたまゆらとちりはてて
 
はじめに火葬をおぼえた貴女持統は
 
きらきら骨灰を壺にひびかせ
いかなるおんぎょくなのか
とうとう冥くなってゆく
 
かけら世の、貝からはなれて
 
 

2019年06月08日 日記 トラックバック(0) コメント(0)

宿駅

 
 
【宿駅】
 
 
はじまりとうけるか
おわりととるかで
いつも駅はかおをかえた
 
レールのあるなしにかかわらず
しずかな駅を眼路おくにみて
 
使役馬のつなぎどころや
ふるびた跨線橋などで
せかいの中途が成るのを
かたじけなくかんじた
 
ひとひとりではなく
ゆくひとどうしが旅客なのも
あじさいのひかりやゆれのこと
 
いっさんにとりどりのみずを
のせてかえすなどもできず
まぼろしの歩廊は壜のかたちに
これからさきをながしていて
 
あてびとおとずれぬ宿駅の
こころげしきがいたくにじむ
 
 

2019年06月07日 日記 トラックバック(0) コメント(0)

あかいかげ

 
 
【あかいかげ】
 
 
緋のころも、朱のころも
その色ばかりゆきかった森を
なんのうたげだったか
いまはもう悔いるのみだ
 
布のあまりあるしぐさは
おごそかにもえあがるから
 
ひとらは詩篇をみずにひたし
みずからだけの見おろしで
こえとせずなげいていたのだ
 
おとの炎上でこころがみちれば
からだもすでにみずべといわれる
あかい長衣がこころをかくし
ゆきかいはみずのごとくあわさる
 
樺のむこうにあかいかげあまた
世のおわりにて朱はきませり
 
 

2019年06月04日 日記 トラックバック(0) コメント(0)

迂言

 
 
【迂言】
 
 
迂言にてそのひとはかたる
おそらくは朝まだき
だれかだれかの門口で
 
わかさとおごりのころは
日のおちるはやさとおなじに
ひろい原で西へ馬を駆って
ゆうやけにありつづけたこと
 
そうしてとぶリボンさながら
とおくあってうれしかったこと
 
ましてや犀の群れをひとみの奥に
おいてしずまるかなたすらあり
その沼水も翅にみえたのだという
 
ふりかえるからだはおんがく
 
水漬くやなぎの枝のように
ひゆとはいえぬ些細がゆれた
 
 

2019年06月02日 日記 トラックバック(0) コメント(0)