掻痒
【掻痒】
もうひさしく
ぬまのうえをみていない
かぜがわたって
まぶたがきれ
虹彩のないみずのひとみが
もうもくのまま
そらをうすくあおぐのを
もうほとりからみていない
ていめんがあって
そのうえのある
ひろがりのねむたさは
傘をさしてあるく
このからだにも似て
わずかにそこを藻のしわみだす
だからもうひさしく
このからだを
あなたにひらいたあなにも
うつくしく痒く
うつしていないのだ
悲歌
【悲歌】
すぐさまやかれてしまう
かおをみられることもなく
こつつぼにてかえされる
わたしらにもともとあった
けがれがすがたになったのは
たったふつかのあいだだったが
ひとよとふつかがことなる
そのさかいめはけしきにもあり
ふじのしだれがゆれている
さなかをゆきたいとねがって
バルディーニの花の隧道へ入る
花のみず、うすむらさき
水漬いてしまうからだこそ
なにかに鳴るものではないか
この身はこつつぼに似て
ひつぎとはことなるのだと
おのれからあゆみでる歩みが
おみあしのしろがねにかわって
かぎりの悲歌をうたいあげる
夜翅
【夜翅】
おおいなるものがくる
ひとのかたちはしていない
そうきまじめにつたえながら
ほとりにてひとの髪をあらった
ひとのかたちでないこわさを
かんがえたことはあるか
かたちじたい融和的だという
ほうそくがこわれた場所に
ろうそくは吹き消される
みた、かみさまはどちらだ
ゆかない場所をもつ生が
はやりだしているし
流行もかたるべきことだが
おおいなるものがきて
ことをものが、しのいでしまう
みつばちのかたちに熱がでて
くものすのきれいさに咳うまれ
ひとつひとつすくなさに
あながあいてゆくこの恥だ
やまないあめがふるよと
ほとりにてひとの髪をあらい
むかしどおりにみあげたのだが
よわさはどちら、わたしのなかか