異説
【異説】
風が吹いてゆるされるのだから
風をえて野へと連れ立てば足りる
聴えをやめ、ながれちる異説も
彗さながらひく躯ふたつさえ
無蓋の荷台で搬びさられるなら
二篇
●二篇
【マスク】
鹿のつらへおきかえるかわりに
かおのなかばをマスクでおおうのだ
かくて眼のものになり受胎となり
いどころに他家の軒をえらべば
ひとなかばのすがたも気疎く
はなれふるびているからくずおれる
【ふるはる】
やがておのずとおもいだす
四季では春がぬきんでて旧く
みえないものが距離をうずめた
はるふる、といまはとおざけおもう
ふるはる、と舌でころがしたなら
ときどきは絮もこころに頻った
ぬかれる
【ぬかれる】
めつむって手のひらでなぞるには
しずけく刳りぬかれた凹半球がよく
おくまるひみつへふれて頭をたれ
あわせてぬかれる、すさぶたまなど
無心
【無心】
まなざしをながくすると
中途がかすれているとわかる
なにごともおんなの裸身めいて
えいぞうのはるか夏道を
まみに汲み、しろくみなおぼえる
左右
【左右】
みずへふかくしずめると
おぼろをますくだものふたつに
そのときの左右ならあるが
みなそこをわたる秋風でまどい
やがてともにふかくほぐれる
こびと
【こびと】
めつむって推敲するのがうれしい
こまかくことなりがうかびかつきえ
しねまをみあきないのとおなじ
短躯とされて矯めもゆれるが
かぎりあるもののかぎりへのみ
みずからの刃は向く、こののちも
星
【星】
なみだをながすというのは
かおがぶんれつすることだが
くらい眺望になじみだすと
さらに、さらにとおくのひとに
顔の起源がよみがえっている
あれらこそ交易される星と
各層
【各層】
あの欅までとおもうがゆきわずらい
ほんとうの位置は植域だけとおそれた
となりあいも過誤さながらゆらいで
ひとつあるべき見神の悍ましくあまた
共鳴
【共鳴】
よみとけぬ文書はちいさくきざみ
ひとつずつをひそかにはこんで
恩ある樹雨に共鳴するのをまった
こころもすでに荷とすらいえず
自余は自他の、からだのこりだけ
誕生日
【誕生日】
うまれた日付にふかくうたれながら
むかしふうにとがる傾斜屋根をみあげ
破風から月へそのままおよぼせば
せのびするからだのこしが半馬めく
舟路
【舟路】
くちのなすべきことが禁じられ
マスクのおおえない眼のみで
なにごとかかたるようにすぎて
かなしみがうつくしさとなる
あわくけわいしためもとの
いかにある双のさびしさ
視でする舟路もひとすじなのは