秋風
【秋風】
しずかな肩をならべたのは
からだにおなじところのある
よろこびを確かめるためで
頭部はそれで昂揚したが
たがいに同異であるその頭には
昏れなければ真の並置もなかった
もようのちがう皿ふたつ
ふかく泣くとはそんなことだ
かつらむき
【かつらむき】
かつらむきのしずかなたのしさは
ゆうべ、ものごとのひと肌すべてが
すけてとおくみていると知ること
こころにひそむこがねの梨なら
むかれてまるくゆうべのめぐりの
ひかりまでうすくしずめるのだから
ひめごとへは庖丁をあてなくては
駙馬
【駙馬】
下る無人舟に沿い河原をゆけば
ゆるやかな順いがうすく戴冠され
車駕の苦労のあれるいしみちを
秋霧おもたく駙馬も連れそう
蝦夷竜胆
【蝦夷竜胆】
はじらってりんだうにそむき
らりれりろりら、すずふるひとを
みぎ手のむらさきとおもうのも
しぐさの受動にラ行が流浪するから
薫物
【薫物】
くちびるを傷んだ花酒でしめらすと
かおあかりがほろほろとくずれた
たきものにふれたのか、露ではなく
珠
【珠】
あわく日陰にあじさいがゆれ
てのひらを索めるのだから
珠によりささえられる生もある
うるわしい複屈折のこの日
複語尾のように言をさそって
坂
【坂】
坂道には上るか下るかしかないことに
ある夜暗然としてあゆみおぼえる
頂きのさらなる上に星がまたたくと
どの詩型がしめしてくれただろう
みあげてもある、ひとのにおいの奈落は
くだり坂だけの無辺をさきぶれする
ふかみまで
【ふかみまで】
太幹にも鍵孔あるふかしぎを
詩の拠る傷とふわり大悟し
ふかみまで舌の泡を挿すのだ
同一
【同一】
如実という語には如と実があり
おんなのひとみをみてとまどうが
ととのいの語調や風韻にすぎず
いなみさえくろくしずかにおくまる
劫初からのおよびがたいどういつ
えりあん
【えりあん】
りんかくのままにくりぬかれ
穴となってやさしむ弦月は
うらがわの蜜をあおく傾ける
山越
【山越】
おりてくる雨つぶひとつひとつには
めぐりの雨がぼんやりと映って
たがいに和す退転の他者にたぐえた
粗餐
【粗餐】
ひとりする餉は天より吊られ
あやとりがしろくつづいたのち
粥椀を虚にかえすまでの幾許