種類
【種類】
オリーヴのあぶらをおびえてかぶる
こがねいろのままにしばしあゆみ
着るもののひだがわたしをかがやいた
みるくをはこぶむすめらとゆきかう
塩漬けの豆さえあればわれわれは
冷製スープとなってしずかにまざる
ひとのかわりにスープにならないか問う
ほろのない軽トラの荷台でゆけばいい
けいるいがどこへながれうつるのか
とおしのよい遠めがねでかぞえながら
まわるかなしみを種類でかたるのだ
図書寮に禾本がしずめられたゆうべに
無色
【無色】
ぜぶら屋があまいぼだい樹のもと
いつのまにかあわくあらわれて
いろのないたぐいをひとにあきなう
うまのすがたで多くはうごいているが
いんど時代の写真やフィルムまで
いろのなさからにわかに手ばなして
ひらものとかまきものとか称している
すべてけむりとまざる音だった
ねりものも売られていたとしれる
いばしょなどうつせなかったぜぶらは
さりゆく露天商のあとをしたがい
えんぴつのようにほそくなってゆく
悪穂
【悪穂】
手でふれてしたしむときには
眼はみえなくなろうとしている
黙考にある、ふたえのさまのように
しばしばしたしむ、ふれうるものなら
たとえそれが隻句や垣であっても
みえているものは手にふれると
みばえとことなるさしもどしをする
だからこそくびも手中にくびる
みえなくなることにさんざつかれ
そぞろあるきからようようもどると
手には悪穂というべきがにぎられ
むごくむらさきを滴らせている
聖水
【聖水】
ほねの髄をくりぬいたうつわに
すこしとろりとした水を容れ
坂のいただきの家まで日々はこんだ
ながいひるのあいだすこしずつ
くちびるへ挿しいれる角度をかえ
おおきなかぜのあじがしますよねと
その舌にかたりかける日課だった
ゆうべくりやでほねをかたむけ
さいごのほそいひとすじまでたらし
のみものを蒼く淹れてあげると
ひとのあながしずしずとひらいて
泡海嘯のような逆行もみられた
炎点
【炎点】
さる夜は顔の映画をみましたか
かおが遠点になるまでをとらえた
ほしぞらのようなおわりを
それからのエンドロールに人名もなく
表情のゆらめくやさしさがながれた
おわる予感のそこにこそ幻燈がのこり
いないひと、いないひととなげいた
それぞれのときのそれぞれだった
けぶる屋根にいてとちの実にみえた
樹か実かをなぞる生をエロスとつげて
映画、かぎりなく炎点がならんだ
おもうとはおもうを割ることだった
淡海
【淡海】
ねむたいし、かなしいからねると
ひとことだけもらし
寝床でしずかになった
そのおもりあるからだを
ねむりのなかをみちるかなしみ
としてながめつくすと
あふみが若狭に接するあふれがみえた
いまはなごりとなったむらぎもも
よせるなみになびきつづけ
くさなのか、かなしみなのか
わからなくなるすべてのねむたさで
さいごの行さえかき消されてゆく