無双
【無双】
よい理由とはすでにひゆなのだと
人死にのつたわる地でおもった
てんまどからひかりがおりていた
ずっとふたつというあらわれに
身を割ってなげいていたころ
そもふたりづれのあまたが
ものへのひゆよりもうつくしく
あれは母娘、あれは姉妹と
さいだんをかぞえあげていた
おなじ綺羅をまとうとなおよい
かるい換喩かあかるい暗喩か
おんなの無双へも達するようで
L字
【L字】
ひがわりでとうざい南北に
まくらをおきかえるべく
L字型のベッドも公案されたが
ねごとすれば声が鉤に包まれ
しゅゆのうちにはかなくなった
ねむりはすすきへとわけいり
おきぬけなぞぎんいろに
詩の舌がしばられてかたく
ものをいうとほねもにおった
寝台そのものを恋とした
おぼえがこのL字にはあり
おのれひとつの肉愛がのこる
著莪
【著莪】
とうげをぬけようとして
こめつぶがぱらぱらとふり
ありがたく鉄鉢でうけた
凪ぐなのか薙ぐなのか
みあげた仏すらわからず
炊くやすらいへむかおうと
つぎの谷におりていった
抹香の尾をほそく引く
くだりのひとこまずつが
つながらぬ連鎖のよう
身は句集のようにつかれ
しゃがのたかさでしゃがむ
耳栓
【耳栓】
ないてきな音楽を脳の風へみたし
耳栓びとはひとみをかすませる
おもいでとはちがうものがみえる
だれもがみみにふかく栓をして
なかに未知をみつけたといいます
どろからわいて蓮がこぼれだす
しらくもが段になったあのなかに
ひろく水にうく蓮葉のみどりが
層となりたがるみなもをなだめて
おんなのすがたをしたものらは
ただおのれを消音して畔になります
それぞれの同異を線とつなぐべく