川神
【川神】
雨中風中にあえぐ橋をみた
わたすおのれがわたられてしまう
まことおののいてゆらいでいた
すべての具象は沈下橋なのだ
だがなぜ木でつくられているのか
しずんでやがて再誕するものが
なぜみあげる木目をもつのか
みちびきがつづくのみではなく
まどおもつづける橋どうし
あらぶるいきおいにもまれて
川神とよばれるべきなのか
木目がとじられ濁流をゆるす
煉瓦
【煉瓦】
このてのひらはおもいつめて
いなほのひろがりではなく
だれかの割るレンガへとつづく
とつおいつ秋にはつづくのだ
おとが破壊のさきぶれだったと
おのれのあくがれがものをなぞり
のこしてゆくたいせきを忌む
かかわれば身にならうなにかが
だれもいないを、手にもたせ
割る道具に落ち栗をあやつれば
ことばの自破こそうつくしい
それでも思うレンガ状がのこる
繭蔵
【繭蔵】
きぬをたべているひとがいる
いとをすいつつ、まゆもほおばる
手からくちへなめらかがうつる
まとうべきもので内壁をおおって
きもののようにくずれてゆく坐
ひとをすこしほめるためには
横死とくゆうのひらたさも要る
そこからの漿などないのに
くちなかはひんやりとぬれそぼり
からだぜんたいが涙痕をえがく
あのまゆぐらはどこにあったのか
おそらくはほほえみのゆがみに
月齢
【月齢】
ひとの途中がすきなので
着替えるすがたにみいられる
それでもそんざいをけすような
ぬののゆれる着物でなければ
粉塵をふくむ月光にまぎれ
着替えはとおくおこなわれる
秋のぬのがきらきらと舞う
もちづきのもとのあれはだれ
途中をちらす叛意もみえた
なぬか後には下弦のひととなる
半分であることがのぞまれて
そのときそらへかけられる
秋湯
【秋湯】
からだの秋が冬へとなりまさる
それをゆげのなかでかんじるため
この季節のふろに入りだした
はだの悲は湯にひたされて
しずんでゆくふかみでとろける
ゆぶねはかんおけの予習だが
おゆのなかだちもあるのだ
ふろに入る理由はあまたあり
よさもぬくみだけではない
からだは湯を掘り、かつ彫った
ゆめみたいなおのれのながめ
とぎれずに中折れしていて