海雨
【海雨】
もとはひとつひとつのつぶなのに
万條のいとにみえるあの降雨が
せつなく海をなかせているだろう
えきたいがけぶるふゆのさわだちに
傘のうちでこたえなければならず
みなあのひとの累乗になりかわって
かたみに海上をあるいてゆくのだ
傘をさせるさいごもことほいで
まぼろしのえらびにあやまちます
みぎてとひだりて、どちらが
傘のうちをたて対称をくずすのか
まぼろしになるまできえかかります
影絵
【影絵】
れいじゅうてき、とこのくちが発し
つめたさがあさぎりにひろがった
到来はすでにきらきらとみちていた
みさきはきえることで海を抱いて
みっつめのそんざいをおもった
わたしは再帰によってわたしとなり
しずかなおくれをみおろしていた
うまやのゆげにふかくつつまれ
れいじゅうてきとくちがまた発した
いちにち馬をうたおうとしたが
わたしのなかが下へ牽かれてゆき
あしもとは埒だけがかげゑをなした
隠顕
【隠顕】
じぶんにはおおげさにしないよ
すてみだからことばもほそくする
縦のものがはるかにみえる日があり
それでも塔がさほどたかくないと
たかをくくり手許のならびをつくる
横のものがはるかにみえる日には
とおくが層になってことばがでない
領域とはなにかをかんがえる日だ
じぶんが領域に加わっていない
たかいひとがのぞめて手をふった
木立ではそれもとおいひとにおもえ
みやるすべてが隠顕にかかわった
赤柴
【赤柴】
ゆうがたにもらわれてきて
牝らしく、あかねとなづけた
おさないころはもっとあかかった
くさのはらをともにあるくと
あしもとにほのおがゆれた
なづけじたいがおどるとおもえ
はじめて詩のあらわれをかんじた
底からよわくわきあがりながら
ひくさにたもたれるかなしさ
こっちをみるなとやっとつたえた
えのころでなくことばを飼って
その訥もさらに詩をふかめた
線虫
【線虫】
モノには線などないという真理は
みずからまわす腕をながめてわかる
レオナルドも晩年は線の否定にいたり
とことん明暗差を彫琢していった
だからいま線が悔いとかかわりをもつ
そらをゆくかぜが、ころものひだが
そそぐ陽光すら線でしめされると
あふれだす、ひかりやまないきずは
遍満の記号となってひとをうつ
とおさとはただへだたりではなく
とおさないぶの諸事の疎のこと
かなしみにはあれも線虫にみえた
水翅
【水翅】
手からほのおをぬき
かわいたみずをなでる
あいしかたはそれだけで
ゆきつもどりつが
かたらうしぐさとなった
そらからの反映でものみな
ほのびかるひるまだから
ながれる川のほんの水面下で
くらい水翅にふれたかったんだ
手がつめたく櫂にかわり
さみしいかわらを漕いでいた
はねをいそがせよともひびいて