翼琴
【翼琴】
翼琴はちいさな幅で
おとに強弱をつけ
しかも響きに淫しない
家具にまぎれゆびづかいを
ひざにのせるここちだ
つばさをひかえめにひろげ
夕禽にもなってゆくが
なることはたえず練習中
みぎひだりがゆめみる
うちの金具でこそ
みずからのうちをうつのだ
ああ、ちいささもこわく
水火
【水火】
水火、ふたつ性がまざり
あぶなさがうかぶ
ぬれてそこがただ炎える
くるしみともされるが
すがたにこそそれがみえ
かげろってはゆれる
ゆれてあるなしのさかい
あいまいなとおさを
ほらあなのようにおぼえ
ひとのひろがりのする
迎え火がこわくなる
うしろには呼び水もあって
海髪
【海髪】
ゆめのなかではふつう
風をみることがない
事物はうちからとよみ
ただ閉塞をみたす
それでもあるときは
手に風をもってくしけずる
みだれをきわめようと
ふきあげたものは線
へだたりがひとにかよう
ふかくひめられている
寂光あまたにも泣き
海髪へ手をそわすゆめ