ローウェル・ジョージの詩 ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

ローウェル・ジョージの詩のページです。

ローウェル・ジョージの詩

 
 
台風で蟄居がしいられるなか、
後期のロックバンド講義のために
リトル・フィートの曲のなかから
ぼく自身の未訳のものを訳していった。
「好き」ということもあって
すべてローウェル・ジョージの曲。

彼の詩はロック詩のうち最も訳しにくいものではないか。
口語のみならず、隠語が入っている。
それでも黒人音楽の淫猥な(艶笑譚的)発想が
放浪者の抒情で浄化される点に個性がある。

「失恋主題」「寝取られ幻想」「麻薬傾斜」も加わりながら、
「um」などほんの少しの語の加算と
一行ごとの立脚のズレ(その奔放)によって
全体が素晴らしくダンディに仕上がる。
ほかのリトル・フィートのメンバーの曲は
ファンキーだが、こういう要素が稀薄だとおもう。

「ダウン・ビロウ・ザ・ボーダーライン」は
メキシコ国境付近の烈女を唄ったものだろうが、
どうもぼくの英語力のなさが出てしまい
訳出には自信がない(変えるかもしれない)。
それと「トラブル」中の「you」とは
ローウェルの、ローウェル自身への呼びかけではないか。

いくつか歌の対象もしくは第三者の位置に
「fat」という形容詞が出てくるのが面妖だ。
周知のとおり、コカイン中毒だったローウェルは
やがて異様な肥満に陥りながら
その黒人由来の畸想才能を蚕食していったのだから。

なお、訳出済のローウェル曲の歌詞は
「阿部嘉昭ファンサイト」中「ロック訳詞集」をご参照あれ



【イージー・トゥ・スリップ】
〔『セイリン・シューズ』より〕

ひとは簡単に足を滑らすし
簡単に転落してゆく
思い出なんか流しさって
なにもしなきゃいいんだ
きみが失ったすべての愛情も
きみが思い出せないすべての人々も
ちゃんと実在してはいるんだが

いまは世間のすべてが冷たくみえる
魔法はみな消え去り
一緒にすごしたときも
ぼくが演奏する哀しいメロディのように
溶けさった

そうだ、ぼくはもうこれから先、生きたくない、
きみがぼくを置き去りにした影のなかでは。
だからぼくはメロウな煙草に火をつけて
すべてを忘れようとしているんだ



【トラブル】
〔同上〕

きみはクルマのエンジンがかからないのでわめき
すごく苛立って、悲嘆に暮れる
きみはすごく肥ってしまって
もう靴も足に入らなくなっている
トラブルだ、仕立て屋のせいだ
そんなとききみのママは
きみの頭を逆さにして木陰に隠した

だってきみの眼は疲れていたし
きみの脚もそうだった
世間もおなじくらい疲れていればときみは思うが
ぼくはきみに手紙を書き、送る
きみに今日生じたトラブルなんか
この手紙にみな置き去りにさせたいんだ

きみの電話が鳴って、きみは苛立つ
こまごましたあれもこれもが手につかない
いましていることに没頭しなくちゃならない
わるいひらめきにも、あの厭な奴にも別れを告げて

ぼくは孤独だから自力でやってゆくけど
きみは苛立ってわめく
ストーブが破裂してひっくりかえったんだ
どうして受け入れられよう
でも天井についたきみの足あとは
ほとんど消えかかっている
それできみはきみのママが
頭を逆さにしてくれたのはなぜかと考える

泣くなよ



【ロール・アム・イージー】
〔『ディキシー・チキン』より〕

ああ、ぼくはただの放浪者
クルマでずっと漂流している
口八丁の卑猥なことば
それがぼくの口をついて出る
ぼくは宮殿を否定したが
王や王妃とともに酒をのんだ
けれど愛する者よ
きみこそがぼくが知りえた最良だ

気軽にアハンとはじめないかい
ゆっくりと ゆったりと
ぼくを尊重して
不安も緊張も捨てて
きみは楽園、あまい楽園を歩き、語ったらいい

そう、ぼくは各所をさまよってきた
デンバーから海にもいった
ぼくはこんなに甘く唄える少女に会ったことがない
きみはヒューストンに住む天使のようだ

気軽にアハンと唄いださないかい
ゆっくりと ゆったりと
コンサーティーナを弾いて、ゾクゾクさせてよ
そうなればぼくも警戒がとれる
ハーモニーをユニゾンで唄おう、甘美な和音を
国旗をかかげなよ
ぼくがきみの太鼓を打つから



【ファット・マン・イン・ザ・バスタブ】
〔同上〕

抜き打ち検査は四つん這いになってしなくては
奴は言った、ヘイ、ママ、俺はちょっと家を出るよ
わかったわ、と女は言い、でも今晩だけ外泊じゃなくて
月曜に帰ってきて、火曜だっていい
それなら外泊を許すわ

俺は言う、ヤニータ、俺の愛するヤニータ
おまえは何をたくらんでるんだ
ヤニータ、俺の愛するヤニータ、あまいテキーラ
おまえは何をたくらんでるんだ

怪しげな酒場で数十セントつかう気もせず
ヤクをキメる気もしなかった
だって時間がなかったんだ
やれやれだ

だって肥った男が
バスタブにいたんだ、ブルースまで唄って
俺はおまえの呻きも聴いた、悶えも

ホント、哀しくなったぜ
探偵は帽子をかぶり
走りだして、通りまで出た
肺腑をしぼりだすようにわめいた
俺はただ自分の人生が
なにか佳き愛であってほしいだけだ
俺はこの生活と時間が
ほんとうの愛であってほしいだけだ

おまえのメーターにカネを入れて
夕日は転がり落ちた
けれどおまえはスクイズプレイ〔芝居じみた抱擁〕をつかって
俺を引きもどした
ケバケバしい街角で
いやはや、いやはや



【ダウン・ビロウ・ザ・ボーダーライン】
〔『ラスト・レコード・アルバム』より〕

南の国境からちょっと逸れたところは
ここから曲がり道に行こうとする
バカどものホットスポットだった
そこで公平な扱い
公正な取引をもとめていた
彼女には拳銃が要らなかった
彼女自身が最後通告だった
彼女は急に曲がることができる
乱暴な運転をする
ヤツらは気の良い男たちにすぎず
あなたたちはそこであればどこでもぼくを下ろすことができる
国境線をくだって
国境線をくだって
国境線をくだって

きみは手を差しだすが彼女は注文が厳しい
彼女はきみを勃たせるためにあらゆる手段を講じる
きみがここに何回か来てもいいとおもうなら
もう国境線をくだっているんだ

オノマトペによる詩、進行中のシンメトリー
彼らは少女が見事に海を渡るのを聴いた
そんな彼女に惚れるとスリリングだ
それが本当だといってくれ
彼女は逃げだすだろう、
泣いているきみを一時停止の標識に取り残すだろう
国境線をくだって
国境線をくだって
国境線をくだって

きみは手を差しだすが彼女は注文が厳しい
彼女はきみを勃たせるためにあらゆる手段を講じる
きみがここに何回か来てもいいとおもうなら
もう国境線をくだっているんだ
 
 

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2011年09月22日 日記 トラックバック(0) コメント(0)












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