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マーク・ボランの詩 ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

マーク・ボランの詩のページです。

マーク・ボランの詩

 
  
昨日のローウェル・ジョージ(リトル・フィート)に続き、
今日は後期講義の準備で
T・レックス、マーク・ボランの歌詞を訳した。
彼らの最も売れた『電気の武者』『スライダー』からピックアップして。

マーク・ボランの歌詞は
「ぼくは古代エジプトから来たロックンローラー」的な
自己神話演出が多く、「他者」がいない――そうおもってきた。
それにファンタジー文献からの固有名詞や
彼特有の造語がくっつくのだから、
いまでいうサブカル詩とも位相が似る。

それは確かだが、原語歌詞を見ながら
T・レックスのアーティフィシャルにメタリックな
隙間だらけの「熱狂」(実際には音は愛らしくボロい)を聴いていると
児戯に通じるその歌詞が単純な分だけ
何か神話的な含みをはらんでいるとも理解される。

語の連関に意外性があってそれが刻々に耳を打つのだから
とうてい倒置的には訳せないし、
あるときはぶっきらぼうに響くことばに
文脈の補助をおこなわなくてはならなくもなる。

いずれ長持ちしない詩法ではある、
自己言及と自己神話化、殉教願望、それに少女詩のように
奇異な語彙がときたま繰り出されるだけでは。

ところがマークの歪んだギター音と人工的なビブラート唱法、
さらにはトニー・ヴィスコンティの妖しい襞のような
ストリングス・アレンジのなかでは
マーク・ボランの「詩」はクラヴェリナのように
限定的な生気にあふれ、これこそロック詩の本流という気もしてくる。

ホモセクシュアリティの示唆、反世界住人の列挙、
さらには反語的な愛情吐露は琴線を引っ張って
少女たちの顔色を変える。
マーク・ボランの歌詞をかんがえ、耳に引き寄せると
ひとは「少女になる」だろう。
このこと自体にロック神話上の価値があった。

マーク・ボランの歌詞の最良部分には音韻性が
無意味と境を接するまで組織される。
それは「感情」を漂白した列挙体へと変貌する。
「テレグラム・サム」が好例だろう。

訳出にあたっては既刊『マーク・ボラン詩集』(シンコー・ミュージック)
を参照にした。
ただし中川五郎さんの訳は意訳と口語的語尾が多く
これらの点を中心に、ぼくごのみに改めさせてもらった。



【マンボの太陽】
〔『エレクトリック・ウォリアー』より〕

ビバップの月光のもとでこそ
ささやくように、きみへ唄いたい
マンボの陽光のもとでなら
ぼくはきみにたいしぼくのままでいられるけど

ぼくの生活は影をなくして奔る馬
きみに気持ちがつたえられないなら
鰐、鰐とふりしきる雨のなか
心臓はきみがために、うずき痛むだろう

ガール、きみはすごくしっくりくる
きみがために膝が野生化して
山岳地方でぼくは
きみへの「ドクター・ストレンジ」になる

獰猛な湖水のうえでなら
まちがいなくぼくはきみを愛せる
ぼくの脚は一触即発
ぼくの鬘はきみをおもい犬のクソをたれる

帽子を手にささげもち
ぼくはきみがほしくてたまらなくなっている
鬚のなかで星がきらめき
ぼくの心はきみがために不気味になってゆく

ビバップの月光のもとでこそ
愚者のように、きみをもとめて吠えたい
マンボの陽光のもとでなら
ぼくはきみにたいしぼくのままでいられるけど



【コズミック・ダンサー】
〔同上〕

12のとき、ぼくは踊っていた
それどころか喃語時代にも踊っていた
子宮から滑り落ちてくるときすら身を躍らせてたんだ
すぐに身のこなしが踊りになるのは奇怪だろうか
子宮から滑り落ちてくるときすら身を躍らせてたんだ

8歳のとき、ぼくは踊っていた
夜が更けて踊るなんて奇怪だろうか
踊りながらぼくは墓のなかへはいった
すぐに身のこなしが踊りになるのも奇怪だろうか
踊りながらぼくは墓のなかへはいっていったんだ

理解しようなんてまちがっている、
ひとの心にひそむ恐怖なんて理解できない
愚者になるってどんな感触だろうか
フワフワ浮かぶ風船になぞらえたいが

子宮から滑り落ちてくるときすら身を躍らせてたんだ
すぐに身のこなしが踊りになるのは奇怪だろうか
踊りながらぼくは墓のなかへはいっていったんだ
けれどそれからはずっとこの繰り返し
子宮から滑り落ちてくるときすら身を躍らせてたんだ
すぐに身のこなしが踊りになるのは奇怪だろうか
踊りながらぼくは墓のなかへはいっていったんだ



【ゲット・イット・オン】
〔同上〕

薄汚くて可愛いヤツ
黒装束
振り返ってもくれない
けれど好きなんだ
薄汚くて可愛いヤツ

細身で弱々しいヤツ
おまえはヒドラの歯を
王冠に戴く
薄汚くて可愛いおまえは
ぼくの占有物

 覚醒しろ
 鐘を高鳴らせ
 からだに乗らせろ

おまえはクルマのように組み立てられている
ホイールキャップを装着され
金剛石の後光が星とかがやく
おまえはクルマのように組み立てられている

おまえは手なづけならないほど若い
ほんとうだ、
鷲が飛び交うマントでたぶらかしているのも。
薄汚くて可愛いおまえは
ぼくの占有物

 覚醒しろ
 鐘を高鳴らせ
 からだに乗らせろ

そうさおまえには風が吹き荒れている
ブルースがおまえにある
ぼくはおまえの靴や靴下にすぎない
おまえには風が吹き荒れている

おまえはクルマのように組み立てられている
ホイールキャップを装着され
金剛石の後光が星とかがやく
おまえはクルマのように組み立てられている



【プラネット・クイーン】
〔同上〕

惑星女王はふとしたきっかけで夢をみる
ぼくのアタマを爆発させて夢をみる
惑星の女王

この世とはぼくが責めを負うべき場所におなじ
彼女はぼくの頭をもちいリボルバーで連射する
けれどこの世は何もかわらない

そう、それで充分
愛だけが欠乏している
 空飛ぶ円盤がぼくを連れ去ってくれれば
ぼくはあなたの娘が手にはいる

機械の先陣を切る龍の頭
キャデラック王、すなわち真夜中のダンサーが
龍の頭

惑星女王はふとしたきっかけで夢をみる
彼女はぼくの頭をもちいリボルバーで連射する
けれどこの世は何もかわらない



【メタル・グル】
〔『スライダー』より〕

金属的導師、あんただね
金属的導師、あんたなんだね
そこに座っているのは
装甲板でできた椅子に腰掛けているのは

金属的導師、ほんとうかな
金属的導師、本当なのかな
孤独のなか
電話ひとつおかず悟達しているとは

金属的導師、可能であるなら
恋人をぼくのもとに運んでください
知ってのとおりその恋人は野生種
ロックンロールの子供なんだ

金属的導師、ずっと
銀のちりばめられた、サーベルの歯で噛まれていたのですか
ぼくも憑きものを落として
ただの防御マシーンになろう

金属的導師、あんただね
金属的導師、あんたなんだね



【スライダー】
〔同上〕

ぼくはまったく理解できなかった
なにが風なのかを。
それは球形の愛情のようなものだろうか
ならばぼくは見たこともない
宇宙の海なら
それはぼくにとってむしろ女王蜂に似ていた

 哀しいときには
 くずれてゆくだけ

ぼくはくちづけたことなどなかった
クルマへなど
それはたんなる扉だから。
ほくは以前いつも自分じしんを
大きくなるようにしていた
〔だから規律をしいる〕学校が奇怪だった

 哀しいときには
くずれてゆくだけ

ぼくは鼻ひとつたりとも
釘で打ちつけたことなどない
そのようにしてしか庭園はしげらない
ぼくはまったく理解できなかった
風がどんなものだかを
それは球形の愛情のようなものだろうか

哀しいときは
くずれるだけ
気をつけろ
ぼくはくずれてゆく



【スペースボール・リコシェ】
〔同上〕

ぼくはただのしがない男
だから風のながれを理解するし
すべてのこと
たとえば子供の泣く理由だって理解する

レスポールを抱えていても
ぼくはチビにすぎない
けれどもこの生は享楽する
どんな手をつかっても

本に本を読み継ぐと
すべてが腑に落ちてくる
作者は友だちのように
ぼくに語りかけているんだ

ぼくになにができる
ぼくらはただ動物園に住んでいるだけ
ぼくは遊びくらすのみ
宇宙球を球形宇宙へ跳ね返して

ぼくの心の奥処には
一軒の家があって
その家がほとんど
きみのすべてを縛りつけている

ぼくはクルマひとつ買った
旧いが馴染む車種
一時期は夢中になったが
やがてきえてしまった

ぼくは少女ひとり愛した
彼女は不易の天使
都市にして、あわれ
ちょうどぼくがそうであるように

そんな子とどうして一緒に寝られるだろう
ぼくは遊びくらすのみ
宇宙球を球形宇宙へ跳ね返して



【テレグラム・サム】
〔同上〕

電報配達人サム
電報配達人サム
きみがぼくのいちばん大切な男

金色鼻のスリム
金色鼻のスリム
きみがずっとどこにいたかは承知

紫パイのピート
紫パイのピート
きみのくちびるは稲びかりして
少女たちをその熱で溶かす

 電報配達人サム
 きみがぼくのいちばん大切な男
 電報配達人サム
 きみがぼくのいちばん大切な男

ボビーは大丈夫
ボビーなら心配要らない
彼は生来の詩人
たんに途轍もないだけ

ジャングルの顔したジェイク
ジャングルの顔したジェイク
何をいってもまちがいなし
ジャングルの顔したジェイク

 電報配達人サム
 きみがぼくのいちばん大切な男
 電報配達人サム
 きみがぼくのいちばん大切な男

自動歩行靴
自動歩行靴
それがぼくに立体視覚と
カリフォルニア・ブルースをくれる

ぼくはファンク臭いっぱいだけど
気にしちゃいない
ぼくはぜんぜん正方形でもない
だって髪が螺旋に渦巻いてるんだから

電報配達人サム
電報配達人サム
そしてぼくは遠吠えするオオカミ



【ボールルーム・オヴ・マーズ】
〔同上〕

きみは素晴らしく見栄えがするだろう
ダンスに行く用意をしているのだから
きみはトリップし滑空する
ちょうど小刻みにふるえる飛行機に乗るように
きみのダイヤモンドの手が
薔薇の花のかさなりになる
風やクルマ
そして人びとが過去へときえてゆく

ぼくはきみに呼びかける
月が唄いだすまさにそのときに
きみの顔を石のなかに置き
星の丘陵にかかげる
それは治癒不能の狂人の
腕にきみを固定させることだ
ぼくらは踊り、自分の生を解き放つ
火星上のダンスホールで

きみが昼日中のことをいえば
ぼくはチグハグに夜のことをいう
怪物どもが呼びあげる
男たちの名前を
ボブ・ディランだけがその名を知っている
アラン・リードもそうだと請合う
夜のなかには「ものごと」があふれ返っているが
それには眼を凝らさないほうがいい

きみは踊る
トカゲ皮のブーツをはいて
はりつめている糸を引っ張って
並み居る男たちの顔色をかえる
きみはダイヤモンドの眉をしたオナベ
きみは貧民街の痩せさらばえたヤクザ
ジョン・レノンがきみの名前を知っている
ぼくだってそれを知っている
 
 

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2011年09月22日 日記 トラックバック(0) コメント(1)

とても面白く読ませていただきました。
メタルグルーにはもう一つ意味があると聞いていました。
メンタルグル
心の師とか?精神の師?とか?

それだとかなり前衛的に解釈できるとおもうのですが、?

何しろとてもよかったと思います。

2011年09月23日 小澤 URL 編集












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