スラップ・ハッピーの歌詞 ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

スラップ・ハッピーの歌詞のページです。

スラップ・ハッピーの歌詞

 
 
再来週に講義であつかう、
スラップ・ハッピーの歌詞に昨日・今日と取り組んでいた。
とりあえず再結成前、70年代の
摩訶不思議な響きを湛えたものをどうにか訳出。
以前訳したもの二篇をくわえ、以下にご披露します
(この時代のものの対訳は本邦初なんじゃないか?)。

念のためいっておくと
スラップ・ハッピーは
ピーター・ブレクヴァドとアンソニー・ムーアという
「ひねた」イギリスのマルチミュージシャンに
ドイツの歌姫ダグマー・クラウゼが加わってできたグループ。

初期の音はヴェルヴェッツ風だったが、
徐々に魔法化、ついにはヘンリー・カウと「合体」して
12音階ポップ、という前代未聞の境地へと
数年にして進展してしまった。

その音の変化と相即するように
歌詞にもどんどん稀用語彙がふえてゆく。
ただし「歌詞の不思議」は最初から一貫している。

それと、ぼくが訳して以降、スラップ・ハッピーの再結成まで
ダグマーの声は戦闘的に「硬化」してゆく。
そうして彼女はヘンリー・カウ、アート・ベアーズの
左翼的な歌姫ともなるのだが、
白状すると、ぼくはスラップ・ハッピーでの
やわらかい声の彼女のほうが、ずっと好きだ。


●『ソート・オヴ』(72)より

【リトル・ガールズ・ワールド】

旗がかかげられ
街路もひろがった
ありあまるほど
ふれられるものがたくさんある
それがちいさな女の子の世界。
雑誌、
それは黄緑いろをして
女の子はあまいとおもって
食べてすらしまう、
銀幕のなかでのことだけど。

ひざまずいて、ぼくのために唄って。
お嬢ちゃんには交響楽からの公平な分け前がある。
さあ二階にあがってぼくといっしょに遊ぼうよ



【アイム・オール・アローン】

わたしはこの世界でひとりぼっち
だからさほど気にしていない
世界がさらにわるくなろうとも。
あなたはいつ気がつくだろうか
わたしの身に起こっていることを。
世界がこの身にとりまきだし
からだがとても息苦しいのだと



【フーズ・ゴナ・ヘルプ・ミー・ナウ】

だれがいまわたしを救ってくれるだろう
だれがいまほどこしをさずけてくれるだろう
彼はわたしを置き去りにした、
飛行場で。
だれがいまわたしを救ってくれるだろう
彼はけして嘘はいわなかった
彼はけして嘘はいわなかった
きっと帰ってくるとも誓った、
キャデラックに乗って。
でも彼は絵に描いた餅を約束しただけ
まぼろしを約束しただけだった。
もうわたしには最後の
最後の10セントしかのこっていない
このフライトがはじまり
わたしは自分の心の終わりにむかう
あなたはもうどこにもいないし決して間に合わない
わたしのみじめな心を破り散らしただけ



【スモール・ハンド・オヴ・ストーン】

石でできた小さな手
それだけが私のもの
そこにあなたは輝きをくれた
雪の降りしきる音
それが私たちの間で川となる
ねえ 私の手が大きくなるのを見て
あなたの窓のそばの スプーンの中で

あなたは私を捕まえられない
だって私はいま自分の道を歩んでるから
いまはもう毎日がそう
あなただっていつも変化している
毎日 日を追って

もし私が行くべき方向を知ってたなら
私はそこに永遠にとどまったろう
でも互いに並んでいても
私たちは一緒ではなかった
あなたは私を捕まえられない
だって私はいま自分の道を歩んでるから



●『カサブランカ・ムーン』(74)より

【カサブランカ・ムーン】

彼はよくフェルト帽をかぶっていた
でもいまはトルコ帽を誇らしげにみせる
カバラ的なあてこすりが
彼のことばのすべてにある
チュウチュウ音を立てて煙草を吸い
彼は縒り糸をひろいあげる
カサブランカの月の下で。
彼はひろげた新聞紙のうしろでコソコソうごく
モスクの影に隠れる。
彼はかぞえきれもしない
自分のわたった大陸の数を。
パーティメンバーが霜にのこした
足あとを追跡するだけだ
「アクナルバサック・ヌーム
〔※カサブランカ・ムーンの逆読み〕」の下で。
彼を隠す覆いは破れている、どこかが
どこか――〔ニュージャージー州〕ホーボーケンでは
その男がいう、彼の事件が迷宮入りした、と。
彼は東洋へと送還された
二重スパイが裏切った
彼の鼻の下の無精ひげにはコカインのシミがついて
彼のパズル・ピースはまったくつながらない
高地に住む人びとは自分の顔を刻印したがっている、
白人横断的な硬貨のうえに。
彼は自分の足取りをみたほうがいい。だって
早晩、彼らは彼の無頭のからだを
換気扇のなかに発見するだろうから。
ティンセルのような汗のしたたりが彼の目をしみさせる
精液のような神経症の水たまりが彼の変装のヒビからにじんで
薄暗い売春宿では鏡が彼の泣き声で割れた
カサブランカの月の下で。
昨日の夜にはついに彼も発狂、
壁は崩壊し、全人類は
彼のまえに立ち、手を挙げるが
その意味ありげな身振りを、彼は理解できない



【ハーフ・ウェイ・ゼア】

彼はまだ半分、まだ中途半端
だからわたしの財産はわたしに使えきれないだろうなんて言う
けどわたしは一人暮らしがしたい
川沿いに建つ一軒屋で。
そこで裸で暮らす。ルビーだけ身につけて。
そのルビーも彼が死ねば
遺言で彼から譲られるだろう。
彼はまだ半分、まだ中途半端
彼の顔を一瞥すればたちどころにそうわかる
あなたが知る必要のあるすべては
まだモノクロの状態でそこにあり、彼の眉毛に印刷されてる
彼はいつも「なぜ?」「いつ?」「どこで?」を問うけど
「どんなようすで?」とは問わない
彼はまだ半分、まだ中途半端
最初わたしはきびすを返して彼から逃げた
わたしは感慨をおぼえはじめることができなかった
彼がそのとき感じているとわたしが感じた感慨を。
その年の春、彼が消えさえしなければ
わたしは彼を故郷へ送りとどけただろう
彼はまだ半分、まだ中途半端
会葬者の大きな列が同意した、「これは本当にあいつだ」
毛布のうえに群がって、ボールペンをもって議論した結果だが。
彼らは彼を壁に立てかけ、それから彼をまた壁から離し
輪廻の車輪上を廻るにまかせた。
なーんだ、あなたはそのやりかたでは
わたしをつかまえられなかったわけね。
わたしは時の流れに刻まれた通告の行間を読んだ。
これこそ彼らが言っていたこと、すなわち――
彼はまだ半分、まだ中途半端、
まだ半分、まだ中途半端……



【ザ・ドラム】

隊伍を組み
ドラムのリズムによって行進せよ
自身がまだ水にもなれない無だと忘れるな
おまえは理解途上か理解直後だろう?
わたしがおまえにそれ〔無〕を
手渡しているということにかんして。
あるいはそれはおまえがあえてしようとしない
仕事にすら属するのかもしれぬ。
なあ、かわいこちゃん、
ここにおまえに宛てた手紙がある
(おまえはそれを棚のうえに見つける)
それがカルカッタから投函されたものだとしても
それはおまえが自身に宛てて書いた別信にすぎない
われわれはドラム音がとどろく遠方を見やった。
そのビートに、あたうかぎりオウム返しに反応せねば。
隊伍を組み、
ドラムのリズムによって行進せよ
自身がまだ水にもなれない無だと忘れるな
足はうごかしてはならぬ
次のビートがひびかないかぎりは。
掟のひとつにいう、「中間部分は休止」
しかしわたしは遊戯を意味ありげにみせるのをむしろ嫌う。
なあ、可憐な花のような娘、
おまえはわたしがこれまでどこを旅してきたかわかるか?
何、まったくわからんだと?
わたしこそはおまえの部屋のなかを旅して
その部屋が壁に敵対する鏡だらけと学んできたのだ。
われわれはドラム音がとどろく遠方を見やった。
そのビートに、あたうかぎりオウム返しに反応せねば。
われわれがまだ水にもなれない無だと忘れてはならぬ。
決して愉悦とはならぬであろう、
現在時がすべてなされているのであれば。
夜ごと試す、陽気な夏の月下で
スプーンひと匙のゼリーにも似るおまえのたましいを。
なあ、陽気な花のような娘、
部屋には猫が一匹いて
でもそれはおまえがむかし飼ってものとはタイプがちがう。
けれどもわたしは気づく
わたしは猫を台所の流しに連れていって
それが嫌がるもの〔水〕を飲まそうとさせたのだと。



●『ディスペレイト・ストレイツ』(75)より

【サム・クエスチョンズ・アバウト・ハッツ】

どうして人は帽子を薄気味悪くするのだろう?
それを風雨にさらし、
さらに羽根飾りまでつけて。
帽子の怒りに耳をかたむけるべき、
帽子に熱を出させるべきだ。
形が崩れれば、帽子も駄目になる。
屋外の水門が
驚きの声をあらわにする、
濡らして帽子の姿を良くすることなどできようか、
帽子を火にくべるのも無理なのに。
帽子自体もっと気高さを望んではいまいか?
人は帽子を競わせもできるのではないか、
邪まなものごと、有害なものごととも。
いったい甘草魚に翼が生えるだろうか?
人は帽子を遠ざけえない、
それは単純でもないし
退屈でもない、
よわく華奢でもないのだ。



【ヨーロッパ】

ヨーロッパは疲弊した瞳をひらく
彼女〔ヨーロッパ〕のすべての瀟洒な都市は
平坦にされてしまった
けれどもあまやかな大陸は、勇気は
泣くことがない
西洋の事故とは、「理由」が
裏切るように進む点にかかわる
それが天国の送りこんだもの、
すなわち地獄を撃った。
(遊具を中心化し
玩具をひるがえし、
われらが祈祷師はアヒルを、
その血を飲み、ロールスロイスを走らせた。
われらもその円陣にくわわった。
ひとつの地図が描かれていた、
われらはそれをヨーロッパと承認した!
途端に気落ちし、泣き崩れた)
彼女ヨーロッパは自身に
自身の神話を呼びだせなかった。
ルピナス〔昇り藤〕の花序の突起〔乳首〕は
乳を噴きだした、育ちきらないローマへと。
けれども「理由」は野獣を
石へと変えたにすぎなかった。
(石、それは打たれたとき
ひとつの魂を解放する。
〔教会の〕尖塔から、魂が唄ったのだ――
「ビタミンが鏡中をちらりと見やるだけで
ヨーロッパのジレンマは祓われる」)
ヨーロッパよ、汝に礼を述べさせてくれ
以下のことにたいして。
さまざまな心が旅をほどく。
思い出もだ。
遊山することのなんたる甘美だろう、
とりわけ樹下をあゆむことは。



【ストレイド】

すべてバラバラにされ、半分忘却へと消えたぼくの昨日。
酸っぱくなった光線が霏々と降りしきって
くっきりと今日「在る」ことすら妨げる。
言うのも無念なことだが
たぶんぼくは「はぐれたstrayed」のだとおもう。
彼女は言った、「万事うまくゆくと言って。
そしてこの星ではそう叫ぶ〔bay〕ことこそ大事。
叫びなさい〔bay〕、今日とは日々訪れる日に同じと」。
けれどぼくは道を踏み外して〔astray〕しまった。
ぼくは白状する、
どうしてぼくはそれを秘密にすべきだったのだろう
闘いが終わらないのなら
その終わらないことが、きみを成長させつづける、
きみが「はぐれた〔strayed〕」ときには。
秘密をもつ慎みも消えて
我慢できず同族からの最新の出来事を便りしてしまった。
そこに報告されていたんだ、希望は挫折する、
佳きことは何ものも残らない、
そのことが、われわれの生の目的のなかで復活となる、と。
けれど、だれが上昇できるだろう?
わたしの眼をつつむ瞼の、なんという薄さよ……
 
 

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2011年12月09日 日記 トラックバック(0) コメント(4)

カサブランカ・ムーン、ハーフ・ウェイ・ゼア、ザ・ドラムなど、歌詞もわからず耳にこびりつくほど聴いていたので思わずコメント。大変うれしく思います。ヨーロッパ、ストレイドも。これから曲を聴きながらじっくり歌詞を読ませていただきます。感謝。

2011年12月11日 佐々木安美 URL 編集

 
佐々木さん、スラップ・ハッピー、お好きだったんですね。

一枚目の『ソート・オヴ』も
紙ジャケ仕様CDで
いまはネットで注文できます。

いい忘れるところでした。
「詩手帖」のアンケート、
ありがとうございました。
ほんとうに嬉しかったです
 

2011年12月12日 阿部嘉昭 URL 編集

こんにちわ、 
カサブランカ・ムーン、訳して見ました、 

いつもフェドラスを被っていた彼だけど、 
今は、トルコ帽を是見よがしに被ってる。 
言う事、言う事に、 
カバラ風の暗示が隠されている。 
煙草を一本吸って、それから、
また、話しの縒りを戻すんだ。 
真上に、カサブランカ・ムーン。 

偽りの身分証を使い、 
モスクに庇護されながら、秘密に活動する彼だけど、 
白露に足跡を残して、 
消えた党員を追跡して、通り過ぎた 
陸土はどれだけだったか、勘定も出来ない。 
真上に、アクナバルザック・ンーム。  

彼の偽装は何所かで漏れた。 
ホボーケン駅では、警官が言った、 
「彼の旅行鞄はなくなった」と。 
そして、彼はオリエントに送られた。 
二重スパイ、混血だ。 

彼の口髭にはコカインの染みがある。 
彼のジグソーパズルはピースが合わない。 
高官たちは、彼の多面を南コーカサス諸国の 
コインに刻印しようと思っている。 

彼は、慎重にしないといけない。然もないと、孰れ、 
換気口の中で、
高官たちに、首のない自分の遺体を晒すことになる。 

電飾の様な連なった汗が彼の目を痛めだした。 
精液の様な神経症が変装の隙間から滲み出している。 
暗い売春宿で、彼は、叫び声で鏡を割った。 
真上に、カサブランカ・ムーン。 

昨日の夕方、とうとう、彼は正気を失った。 
城壁は崩れた。すると、全人類が彼の前に 
立っていた。皆が、手を差し上げて、 
深遠な手真似をして見せた。彼は分からなかった。  




お邪魔しました、

2017年05月06日 ノエルかえる URL 編集

ノエルかえるさん、すばらしい語感です。感動しました

2017年05月09日 阿部嘉昭 URL 編集












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