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詩の朗読について ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

詩の朗読についてのページです。

詩の朗読について

 
 
廿楽順治さんがH氏賞受賞の余波からか「朗読」をしいられていて、その難関にあの手この手で(つまり四苦八苦で)どう対処しようか、ドタバタしているミクシィ日記に微笑んでしまった。いわば朗読に向かない詩を書いてきた「現代人」のツケが彼にもまわってきたわけだが、とうぜんぼく自身だってこれを他山の石と達観する場所になどいない。おなじ難関はいずれ自分にも訪れるかもしれない。

最近、詩とは何かという原理的問題をかんがえている自分とよく出会う。短い散文詩型(改行形ではないからとくに詩の「保証」ができにくい)を綴りながら、それが散文ではなく詩として発露するための「要因」をそのまま詩にしているような感慨すらある。

「朗読」を基準にすれば、詩は歌ものの歌詞と同様に、メトニミーの組成を露わにする。フレーズ(=全体にたいする「部分」)の刻々の変転が(たとえば行単位の時間的隣接関係で)享受者の耳朶を打つ時間芸術的要素に、さらに可聴性が相俟って、それでたとえば「朗読」提供の条件もできあがる(この後に出てくるのは廿楽さんがやんわり示唆したように「声」の問題だろう)。

むろん「視読」による一挙通覧性と内的音韻効果、それに可聴性から可読性への領域拡大によって、詩の作用域が心的に拡大してきたのは歴史的事実だ。ただし原理的な「朗読回帰」主唱ではなく、「現代詩病」からの詩の方向転換に、「朗読」を再定位する必要もかんじる。これを具体的にいえばこうなる――音韻と、伝達時間上の意味加算性、それに加うるにもしかするとリトルネロ(ルフランの反復)こそが、「散文」とはちがう詩の成立与件だという歴史的絶対条件は、詩が詩である以上、変更不能なのではないか。

ぼく自身も廿楽さんとは異なる場所で四苦八苦している。詩の成立要件、あるいはその組成の解読条件としてメタファーではなくメトニミーを置くべきだというのは現在の自分のいわば学術的規定になっているが、それだけでは詩の現在性にたいして何か足りず、対抗要件(補足要件)をかんがえる必要があった――こうして行き当たったのが「自己再帰性」だった。

詩はたぶん、「書くこと」を「書くこと」に向けて再帰的に折り返す、しずかな瞑想性を生きていて、この痕跡を詩は、たとえば小説や論文とはちがい、自己否定的な推敲の痕としてその進行に刻印しているのではないか。換言しよう――たぶん詩に特有なのは、推敲が加算の型ではなく、たえず抹消の型で現れ、そこに生じた欠性によって、表現されているものの規定力を脱対象的にする「余白」生産力が、メタファー効果ではなく、フレーズの「それ自体」として賭けられている、そうした奇観なのではないか。

つまり詩的推敲は、減算であり自己述懐の不能であり、書面上は「傷」としてしか感知されない、或る痛ましさにかならず逢着させる、ということ。こう書いて詩のこの与件が「朗読」に向かないことが、現在の詩的表現者をとりまく問題になっているともわかる。現在の詩作にまつわる「真摯さ」を最大限にみつもると、かならずこうした矛盾撞着が明白化するだろう。となるとありうべき「朗読」にはむしろ、音読/視読間の矛盾を縫合する決着ではなく、さらにそれを内破する過激さこそが要求されている――そんな気にもなる。失敗する朗読こそが真摯なのだ。

朗読は詩的主体を朗読の場で定位する。じつはその簡単な事実が、無名性獲得に指針を置いてきた詩の作者には納得できないはずだ。たとえば「自己再帰性」を遥かで不可能な「こだま」にした高木敏次さんの以下の詩句を、高木さん自身がたとえばおおやけの場で朗読したとしたら、それは書かれていることの拡がりを作者自身が否定することになってしまうのではないか――《もしも/遠くから/私がやってきたら/すこしは/真似ることができるだろうか》(『傍らの男』所収「帰り道」)。むろん正当な自己再帰性は「自分が自分を語ることは論理的には自己抹消に近づく」徹底性につうじている。繰り返すが、この直観は自己定位が条件となる朗読と離反するものだ。

廿楽さんの詩は、ところがたとえば「商店街」に代表される空間的/時間的複数性(共有誘導性)がある。となると、廿楽詩は、廿楽さん個人の朗誦ではなく、会場全員で朗誦をおこなえば、共有されるのではないか。どだい詩作者ひとりにその詩を書いた「責任」を負わせようとする朗読イベントそのものが傲慢なのだ。同席者による同時朗誦――みなで読み、みなで欠性を生きる――この一点にこそ、朗読に直面する廿楽詩が危機を脱出する方途があるとおもった。このとき詩作者固有の詩発想の「速度」は、朗誦の起点である詩作者から確実に伝達されるはずだ。
 
 

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2012年05月08日 日記 トラックバック(0) コメント(0)












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