詩の授業 ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

詩の授業のページです。

詩の授業

 
 
大学で現代詩を教えることに何の意義があるのかと、ときにおもう。現代詩の存在する場所からいって、それは教養形成にはあまり関わらない。でもそういうことは、対象を現代日本映画にしても現代ポップスにしても現代写真にしてもほぼおなじだ。実作者を育てるという目標を邪推されることもあるが、教示=実作促進という設定は、実際は逼塞的で、それではリベラル・アーツが眼中にない専門学校の授業になってしまう。「あなたがたの知らないもののなかには、こんなにおもしろいものもある」という親切な情報提供でもむろんない。

詩の授業では、たとえば詩作者ごとに詩篇を精選したプリントを配布する。それを学生に読んでもらい、印象や批評を語ってもらう。ただし多くは、ぼく自身が行ごとに精緻な読解を試み、そこから全体構成にみなぎっている創意を示唆、さらにはその詩作者の独自性とは何かを、語法や主題から吟味してゆく。そう、読み方の提示を実践的に率先するわけだ。ただし「この詩はこういう意味です」というふうに、メタファーの「解答」を語ったことはない。

いろいろな「道具」をつかう。今期の女性詩講義では、「メトニミー」「自己再帰的削除」「時間形成」「性」「身体観の発露」「改行などにみられる作者の身体性の刻印」「音韻」「融即」「自己把握の哲学的変貌」などをつかった。その詩が体現している何によって読者がテキストに「参入」をうながされるかの注意喚起もおこない、そのうえで詩が賞玩され、記憶にのこってゆく(人生上の)意義も語った。

逆にいうと、読者が「参入」できない詩篇を俎上にのせなかった。そういう参入不能性は一定の形式をしている。①ことばだけがモチベーションとなって、地上連絡性、場所性がない。②ことばの誇示になって、不当に読者の詩作的向上心、功名心を反射させる。③意味もなく難解か独善的なので、詩の細部をほぐすように注視してゆく読解のよろこびをあたえない(「衝撃」はあるかもしれないが)。④フレーズがつくりあげてゆく読解速度に、減速装置がともなっておらず、喧騒感だけが助長される。⑤詩性とは何かの自己吟味がおこっていない(これは実際にはメタ詩であるか否かに一切関係がない)。⑥詩性ではなく文学性だけに依拠した、教養誇示の傾向がある。

まあ、これらがかつて「現代詩病」の症例と指摘されたもので、男性詩の相対的な退潮にともなって詩作フィールドに風穴があいてきたのも事実だが、こまかい反動は詩作者ごとに散見される。そういう「現代詩病」以外の詩作に着地しようとすると、「しずかで」「よわくて」「哲学的で」「地上性があって」「身体があって」「しかもその身体把握の再帰性に驚きが走る」詩篇が顕揚されるようになってゆく。つまり「現代詩病」を扱う授業なら社会学の授業になってしまうところを、たとえば「しずかさ」に注視させることで、「哲学的な反転」を狙うわけだ。

そうして、だんだん詩の授業の意義がみえてくる。まず他者の「存在」「作品」に崇敬を払うことの大切をつたえるのは当然として、たとえば哲学がことばを「つかって」物事をかんがえるのにたいし、詩はそうした土台にあることばそのものを「機能拡張/機能変改する」ことで、哲学の内外に思考を浸透させる使命をもっている。しかもそれはたとえば暗誦といった身体にかかわる「道具」ともなる。だから音韻のわるい詩は、詩の要件を欠く、ということにもなる。

こうした詩的思考は、たとえばテマティスム構造批評などの思考「技術」にたいし、終始本質的な奥処にあったもので、じつは対象が詩でなくても、文学・芸術のどんなものにでも適用が可能だ。ならば詩の授業とは、詩篇の実際の把握をつうじて、まずは拡張可能な詩的思考こそを形成することではないか。そのつぎに、たとえば「ことばの音楽」に酔うことの悦びを、彼ら彼女らの人生上の遠点に転写することが目論まれる。となると、配布プリントに、対峙に値する詩篇が並んでいるかどうかが勝負となる。そこで詩そのものに脅えさせてしまうような難解・独善的な詩篇がならぶことはありえない。

詩の授業の目標をこのように書いてみると、何か大層なことにおもえるが、実際は教師と学生が顔をつきあわせる親密的な可視性のなかですべてがおこなわれる。だからいつとも知れずに、伝えたいことは伝授されてゆくようだ。学生が詩篇をこっそり渡してくる。その出来の良さに驚きつつも、そこにはあきらかに授業内容を消化した痕跡がある。あるいは卒論指導教員を、ぼくに換えたいという依頼がじかにくる。そういうとき、「まずは」事実の次元で、詩の授業の有意性があかされた、とおもうのだ。
 
来週水曜が最後の授業。清水あすかさんをとりあげ、授業内で期末レポートと詩篇を各自から回収する。そういえば前回(昨日)は、斎藤恵子さんをあつかった。
 
 

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2012年07月19日 日記 トラックバック(0) コメント(0)












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