メイン・ストリートのならず者
北大二学期の全学講義「60~70年代のロック・ジャイアンツを聴く」は、「ビートルズ内のサイケデリック・レノン」「ビートルズ解散前後のシンプル・レノン」「60年代の変貌ディラン」とこれまで講じてきて、来週は「悪魔主義ストーンズ」をやろうとおもっている。ぼくはじつはストーンズでは『メイン・ストリートのならず者』が聴いていていちばんキモチいいが、このアルバムはたぶん悪魔主義ストーンズの終息と、淫猥不良主義ストーンズの開始を同時に告げるものだ。それで、つかわないかもしれないが、授業準備のため、内から好きな三曲を試訳してみた(「ダイスをころがせ」は以前に訳してある)。以下にペーストしておきます。
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【スウィート・ヴァージニア】
荒れた嵐の冬をわたっても
おまえには頼るべき友が一人とてない
眼だまの裏の波打ちを抑えようとしてさえ
そこから赤や緑、青の涙があふれやまない
ワインを振舞ったカリフォルニアに謝意を
あまく苦いくだものにも感謝を。
そうだつま先の爪に砂が入った感触
靴のなかにヤクをしのばせていたのさ
*こっちにおいでよ、スウィート・ヴァージニア
うずうずしてる、おねがいだ
こっちにおいで、自分でやれるよ
ふんづけたクソを靴からぬぐいとれる
*
【レット・イット・ルース】
おまえの腕にもたれている女はだれだい
えらくめかしこんで、おまえをモノにしようとしている
おれだってその女の色気にはケツがモゾモゾする
たった一、二か月でおまえはボロボロだろう
噛もうとするには酸っぱい腐臭
食えば下痢するとわかってた
それでも食っちまったんだ
それがベッドルームのブルース
こっちの望むときに、その女はくれる
抵抗できない、お決まりの言い方だが。
ゾクゾクするものをくれて拒めないんだ
それがベッドルーム・ブルース
バーで酔っ払うおまえ
おれは愛じゃない、ツキに見放されてるんだ
電源をぶっ叩いて、灯りを切って
今夜もされるがままになるだけ
友だちなら、おれがヘンになってるとおもうかも
付き合いきれないとおもうかも
でも今夜もされるがままになるだけ
涙をみせる気などまるでない
ゆるゆると、くずれるがままになるだけ
【ライトを照らせ】
1009号室の床に、大の字になったおまえを見た
わらっていた、でも涙をながしてもいた
おまえの心がわからなかったんだ、恋人よ
ベルベルの宝石をジャラジャラいわせ闊歩しても
であうたび女どもに血走った眼を向け
気分が落ち込んでゆくようにみえた、おまえは
*よき神がおまえに光をそそがんことを
おまえの唄う歌がおまえの益とならんことを
よき神がおまえを照らし
その夕光もておまえが暖まらんことを
おまえが陋巷に泥酔し 服も裂け
夜の仲間もみな去って、寒い灰色の朝にのこされたとき
蠅がおまえにたかり、はらうのもままならない
天使たちがちょうどそのとき翼を搏って
笑みをうかべ、眼からひかりをはなち、舞い降りる
その光景のなかのおまえにため息をついたんだ
そうだ天使よ降りよ、さらに降臨せよ
*