10月期新ドラマ
10月期新ドラマというのは、若手脚本家の冒険的な起用を控え、年間視聴率上昇狙いで手堅く攻める、というふうに各局相場が決まっている。企画の練り上げ・熟成期間も、他期に較べ長いような気がする。ところが今クールはその「基本」のうえに、実験的起用もあって、これがまた好結果。それでリタイア番組を決めてゆく作業のなかで、最終的に六本ものドラマがのこってしまった(ほかにドキュドラマ『孤独のグルメ』もある)。結構忙しいのに、ドラマを見るのに時間が費やされることになる。けっして札幌にいて、東京の風を浴びたいがゆえの選択なのではない。出来そのものが良いのだ。以下、ご参考のためその六本を寸評。
『高校入試』=教職経験をもとに「学校小説」を派手に発表している湊かなえを実験的に脚本家に起用(原作のクレジットも彼女)。演出は星護だが、バズビー・バークレー的な幾何学美・運動美をめざす、バロックないつもの星演出は禁欲されている(つまり、どちらかというと彼の『僕の生きる道』のような演出)。長澤まさみ以外はノンスター・キャスティング。それがかえってリアル。高校ドラマを「入試」に特化して、この後、話がもつのかというサスペンスまである。教室の撮り方は学校空間の物質性をじかに捉える。奇矯な撮影角度がつかわれず、静謐にみちた緊張が長くつづく。黒沢清『贖罪』第二話で何が起こっていたのかを原作の湊が検証してこのドラマの脚本を書き、その意図が星につたわっているのにちがいない。今期、最大のカルトドラマになるような気がする(それで以前のテレ東系『鈴木先生』を想起する)。
『ゴーイング・マイ・ホーム』=是枝裕和を脚本・監督・編集に起用した。スタッフィング構成も映画的だが、余白が決まっている構図を是枝の編集リズムで着実に連続させてくるから眼が離せない。是枝の映画従前作、とりわけ『歩いても 歩いても』『奇跡』と連続性があり、同時にテレビマンユニオンっぽい。「空気読めない」「気弱な自信家」「ダサい」「トロい」といった複雑な役柄を阿部寛が巧みに演じている。背丈が活かされているのだ。妻役、ひさしぶりのドラマ出演の山口智子はやっぱり躯つきがエロい。そのふたりの娘(子役)の多元的な表情がドラマの鍵。コロボックルのような小さ神の可視性/不可視性が今後のポイントになるのだろうが、先が読めない。宮崎あおいがうつくしく撮られている。
『ドクターX』=テレ朝の定番、米倉涼子主演のハードボイルドなエンタテインメント・ドラマで、今度の彼女は、医師界の流れ板前ともいえる契約医師(むろんブラックジャックのような超人的技量をもつ)。中園ミホの脚本はとうぜん緩急が軽快で、病院に配された医師などのキャストも次々に個別化してゆく。米倉の超人的な手術が披露されるなかで「白い塔」の討伐も付帯されてゆくはずだが、「含み」のある伊東四朗、岸部一徳の活躍が今後、期待される。
『悪夢ちゃん』=日テレ系土9はこのところご無沙汰だったが、北川景子主演で、みられた「夢」の超常能力(それは画像に転写される)によって諸事件を解決してゆく子供向けSF(第一回を見逃したので精確には書けない)。北川は小学校教師役なので、舞台の半分が学校になる。性格のゆがんだ保健教師役に優香が起用されているのも面白い。特筆すべきはCGをつかった特撮。流麗で発想力もあって、ドラマのテンポを乱さない。そういう摩訶不思議な空間に、GACKTの妖しさが合う。原案=恩田陸、脚本=大森寿美男。やっぱり大森、という感慨だ。
[※女房の話では『悪夢ちゃん』は、小日向文世の娘(北川景子の生徒)がいて、彼女が悪夢をみると、そのとおりに現実事件が起きようとし、それを北川景子が解決するのがドラマの基本だという。ところが夢と現実にズレが生じてゆくのが知的に面白いのだとか。それと北川にはアンチヒロイン的に二重人格の負荷があたえられて、学校秘密サイトでそれが暴露されている別の伏線も張られているらしい。これらは第一回をみなければわからない設定だった]
『PRICELESS』=月9はこのところ方針がバラバラで、もう「月9=覇者」の時代は終わった、と散々酷評されてきた。「業界」を舞台にバブリィな恋愛模様を人物複数配置で描く、というのが昔はこの枠の基本だったが、その基本を思いっきり崩した。一社員のキムタクが若社長・藤木直人の陰謀で、機密漏洩の汚名を着せられて馘首され、みるみるうちにホームレスになってしまう。『獅子座』をおもいだした。枠イメージの大手術をしたのは脚本・古屋和尚。それに鈴木雅之演出特有の軽快なテンポが相俟う。今後はキムタクの元・上司中井貴一と同社経理の香里奈を味方にしたがえ、反抗のはじまる気色だが、勤め人生活の虚妄がえぐられ、代わりに無給生活の楽園性が謳われるのなら継続視聴するつもり。というのも、中井、升毅以外、あまり好きな俳優が出ていないので。
『遅咲きのヒマワリ』=それぞれ別のかたちで東京を放逐された契約社員・生田斗真と医者・真木よう子が、高知県中村(四万十)で出会い、地域再振興と住人同士の絆に目覚める、といった大枠で捉えられがちだろうが、一筋縄ではゆかない悪意のズレも配備されている。そう捉えて視聴を決意した。真木はいま最も好きな女優かもしれない。颯爽、というよりも、国仲涼子の、学業優秀だが暗い「妹」というバイアスが役柄にかけられていて、新境地も期待される。主要人物が順繰りに主題歌を唄ってゆくタイトルロールにウルウルきた。脚本は『僕の生きる道』などの橋部敦子。現状の逼塞を主人公が倫理的に打開するドラマが得手、というひとだが、今回は岡田恵和的な集団性が仕組まれてもいる。その集団性と四万十川の景観との配合が、きっと全体のクライマックスとなるのだろうなあ。気になるのは生田くんのルックスが老けた点。桐谷健太がいつもどおり可愛い。