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春潮 ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

春潮のページです。

春潮

 
 
【春潮】
 
 
にくたいからうまれた泥が層状の縄となって
ゆきやなぎをまきながら海への道につづく

水に伸管があることのうつくしい奇怪で
ひとのまなこにも春潮があふれているんだ

ひがさをさしたい殺しごころだ、柳に櫛に
とおりすがりを投げかけてむしろ消えてゆく

手にくつをはいた四つ這いの時節の尻も
さくら漬けのカブとしてみえようとしている

みえるがみえない、が、みえないがみえる、に
すりかわる椀の白飲みからまなざしをあげて

いまやたくさんの乳があの胸に腫れている
なんのたらちねと問うゆびすらもう過去形だ

はなれてはゆくが、はなれすぎる気負いもない
なんなら地におく足うらから頭頂が錐なので

空気へ身をおしこんで隣庭までをかんぬきにする
そのときのあぶくする口が喃喃となつかしい

ひとを算えるなという戒があった残雪があった
けれども樹下にたつとおのれのなかを算える

とりあえず尖端を岬としたおんならしさで
点がわらい、ちりめんが面にもくずれてゆく

ひとづまはよきかな献身の旋律があるほとけ
にくづきに夜ある腋から泥をこそげることをして

春情がどろぼうに似てしまうその逸脱すらも
かたじけない春隣のつらなりにさしかえてみる

せかいの和合に神の尾をつけて輪郭のみえない
ふくらみだけのおんなを視界の焦点にする

ながれはじめた時間にあるへそのくぼみ
そのようなせまさがあわいはなびらとふれて

精管をさいはてのしべへとのばしたこの花眼に
ひかりのひげものびた。あたりの老いはうるわしい
 
 

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2013年03月16日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)












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