ひろがる
【ひろがる】
案ずるし生むのだからふたつに比較もなく
この身はただ広きへとひろがってゆく
まにまにうすくなりだす生にとって
きんいろは物のかくべつな輪郭だろう
それはそこにはないというしるしで
ために桃へ手ののばされる晩期もくる
なにかにむけてあげられる腕が空漠とふれ
そのしぐさこそが気のながれとなって
かざしもはかざかみを原理として恋う
ふくらみのなかにみえなくなるみずがね
この春、みおろす川にも岸がなく
ひとはそれを往来とよび不帰とよぶ
たったいまのきみをかんがえた途端
あらたまのまくらことばが頭に戴って
あかねさすからだの日がつながれば
すぎたるも棒とおもい、およんでゆく
あめいろはとおさのかくべつな厚みだろう
はじめのなやみだけがそこへ着くとき
声なくして生んだものがへただりをちぢめ
みずから膝をかかえるのに身はひろがる