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横浜監督のこと ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

横浜監督のことのページです。

横浜監督のこと

 
 
昨日の横浜聡子監督との45分間の対談は、登壇者のぼくもとても愉しかった。最初に「脚本の書き方」の質問をして、「パーツごとに着想が浮かび、やがてながれとともに全体を調整してゆく」演繹型だと横浜さんが自己分析、それで脱中心型、解釈線が多様に分岐する横浜映画の秘密を、ぼくが一挙につかんだようにおもった。同時に脱中心性は周縁性とも連絡するから、それで横浜映画の作品の半数を占める青森というロケ地、俳優布置の特徴、「子どもが多用されること」にまで話が伸び、最終的には「脱中心性による中心化へのあらがい」(物語上も)が、映画の女性性の要諦だという結論まで壇上で出たようにおもった(あ、これ、ぼくの『成瀬巳喜男』とおなじ着眼だ)。

横浜監督の好返球もあって、対談はしずかながらも濃密に進展した。「打てばひびく」とはこのこと。上映された三作品(とりわけ中篇『おばあちゃん女の子』が「解釈」多様性を喚起する)のほか、上映されなかった三作品(『ちえみちゃんとこっくんぱっちょ』『ウルトラミラクルラブストーリー』、それと札幌では来年1月公開となる『りんごのうかの少女』)についても緻密なやりとりが生じて、しかも内容が濃すぎるために来場者が消化不良を起こすということもなかったのではないか。最初にぼくが横浜映画の系列を整理し、しかもそこからの話柄の進展が自然だったためだ。

横浜監督でおどろいたのは「大盤振舞」のひとだということ。対談後の歓迎会では北大映画館プロジェクトの運営学生が大勢あつまって横浜監督を囲んだが、ひとりが『ちえみちゃんとこっくんぱっちょ』がDVD化されてないのでどうしても観られないというと、DVDを焼いて送ってあげる、とあっさりいうし、『ジャーマン+雨』『ウルトラミラクルラブストーリー』評が載っているために監督がご持参した拙著『日本映画オルタナティヴ』を学生がみていると、ひとりが「あ、『先生を流産させる会』や『桐島、部活やめるってよ』評も載っている」などと興奮する。横浜監督「あげる」。「自分のはまた自分で買うから」。しかも手渡しにあたっては横浜さんのサインつきという余禄もついた。無償饗応というか善財喜捨を率先するひとには、「カネは天下の回りもの」の法則が働いて、やがて自分自身にもまた恩寵が跳ね返ってくる。横浜さん、つぎは長篇映画の良い企画が進行するんじゃないだろうか。

二次会は監督、ぼく、それに「カタリバ北海道」のプロデューサー江口彰さんの三人だけで江口さんの馴染みの居酒屋へ。そこでは日本シリーズのTV放映がみられて、来店時は九回表だっただけに客全員が固唾を呑んで試合の動向に注目していた。結果はご存じのように前日160球投げて「完投敗戦」した田中マー君が(日本での)最後の一回を抑え雪辱を果たした。最後のストライクでファイターズの優勝が決まった瞬間は、店内全体の壁がふるえるような感じで、客全員の歓喜の叫びがとよめいた。横浜さんも江口さんもぼくも大感激。

北海道民というのは、巨人ファン→日本ハムが札幌に本拠地を移してファイターズ・ファン、という経路をすべてたどっているが、被災地への共苦いがいにもともと東北への親和性がたかい。それで楽天の日本一を心底よろこぶ。ましてや横浜監督の出身も青森だ。それでクールビューティで鳴る彼女も狂喜の表情を隠さなかった。

これはなにかの暗示だろうか。北海道と東北の架け橋。というのも、ぼくはそのまえ、青森・浅虫温泉と、函館・湯の川温泉の対峙性と共鳴性の話を監督にしていたからだ。そのふたつの場所の「小二都物語」なんて横浜監督のつぎの企画にどうだろう。温泉気分、湯気気分のフワフワしたロードムーヴィー。むろんかつて湯の川をひくく見ていた浅虫が、いまは集客にくるしんで湯の川にまなびはじめる「悔悛」の物語でもある。その枠組にわかい男女の出会いが自然に付加できるとおもう。ちなみに横浜監督の出身は青森市の浅虫寄りだという。
 
 

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2013年11月04日 日記 トラックバック(0) コメント(0)












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