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石田瑞穂のように ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

石田瑞穂のようにのページです。

石田瑞穂のように



立教文思一年生向き「入門演習」でのこと。
石田瑞穂『片鱗篇』のレジュメを
一班から提出発表してもらったのち、
僕が出した課題は、やはり前回の荒川洋治と同じく
「石田瑞穂のように詩を書いてください」だった。

難度の高い語彙を蒐集し
(これは辞書をアトランダムに開く、
などの対抗策を用いてもいい、といった)、
全体で「謎」を組織しながら、
しかもリズムをずっと言葉の流れに打ち込むことで
「解らないのに魅惑的な」詩を書いてほしい、と。



――なぜ、こんな要求が罷り通るのか。

僕はかねがね、詩への「創意」は
詩への蹂躙に似た面ももつ、とおもっていて、
「純真な」(笑)学生にこのような課題をやらせると、
とくに詩の可能性が忽然と見え出すのではないか、
と期待したのだった。

詩の創造は、詩の捏造と本当に区別ができるのか。
たとえば既存の詩に置換を繰り返すことだけでも
「全てを包含する」詩はそれを詩として許容するのでもないか。

参照系というものがある。
創造者にとっては、それが多く「既存作品」となる。
その参照系への距離が近すぎるとたとえば盗用等の問題も招くが、
参照系自体を分断し、
参照系同士の個別距離に「遠さ」を組織したときには
その際の人工的手つきが証拠隠滅され、
それは「独創」と選ぶところがなくなるだろう。
ということは、辞書のシャッフル使用などは
そういった創造に向けての方策となるともいえる。

むろん人はそのシャッフルの経験をすぐに忘れる。
すると、あとに残るのは崇高な偶然性だけになる。

むろん、石田瑞穂さんの詩は、
全くこのような手続きで書かれたものではない。
彼の詩は、謎とリズムの組織に向けて
ずっと緊張した意志を貫いていて、
その意志の強さにも読者はもってゆかれる。
ただ、石田さんと近似的な詩は
上記のような方法を用いればできてしまうはずだ。



実験結果は、いつもどおり、やはり面白い出目を出した。
今度爆発したのはT・T君とK・Kさん。
K・Kさんなどは何と2篇も提出してきて、
どちらも晦冥な魅惑を湛えている。

T・T君のは文脈を幽かに追える。
だが最終聯のカッコよさが只事ではない。
そう、詩は一面、そのカッコよさにより
感覚的には第一にうべなわれる。

K・Kさんの2篇はより石田瑞穂調だ。
参照された括弧や読点の規則外の使い方も奏効している。
語彙が冷やっこく曇り、
意味の結像の直後に結像の崩壊がある。またその逆もある。
そのことすら詩のリズムになっている。
手練に感じられるかもしれないが
やはり講義でご本人は偶然の産物、といっていた。
むろんその偶然は素養と結びついているはずだ。

とうぜん僕(阿部)もそのような課題提出にたいしては
「対抗」しなければならない(笑)。
で、つくってみた――。
一篇目「ピエタ」は「ピエタ」の着想を
別の人が出した提出課題からもらった。
これは辞書を引かずにつくった。
がーん(笑)。全然、意味不明の謎が出ない。
これが自分の資質なのか。
苦し紛れになって鷲巣繁男調に流れた反省もある。
二篇目「死出」はこれではまずい、とおもい
辞書のランダム開きを組み入れ、
同音異義語の連鎖を試みたが、こちらも意味が通じる。
しかも同音連鎖が、呪文化せず、
中国風とはいえ、むしろスッキリとしてスタイリッシュな
モダニズム詩調に堕してしまっている。
そうなのか、石田瑞穂風につくれないのが僕の資質なのだな。

ともあれつくってみて判明したのは
僕がT・T君やK・Kさんに惨敗したってこと(笑)。
詩はやはり難しい。
以下は最小の詞華集のように
T・T君、K・Kさん、僕の作例を並べたもの。
前2者についてはその美しさを賞玩してください。
僕のは「惨敗の記録」として読んでください
(ただしmixiの日記欄では文字が詰め打ちになるなどして
スペースが精確に出ない――この点はご寛恕ねがいます)。
それじゃ、また――



【無題】
                    T・T

指先から放たれた軌道は半円弧を描き
雑駁とした知識の海を流れる瞬きに
また、朝の木漏れ日が滲む色に溶け合う

数多の慷慨を振り切り、異人達の声が滾り
交わされた約束は失った薬指を捜しに行く
足元から聞こえる 七色に触れる
艶冶な舞い姿に愁いの雨を降らせ
その音は無機質な紐帯となり
重ねて手を翻す


幻影は凋残な風を戯れに
鮮やかなメロディーに舌鼓を打つ
あなたという主体は汀に打ちつけられた睡蓮のように
夜毎繰り返される祭りに兆節を添える

一瞬、ふと 揺らぐ

半透明な伝達から創造へ
沿ってゆく、溶ける青に
一つ一つ拾い上げて、また棄てて
楓葉荻花の風景を描く
かの蒼茫たる様相に思いを寄せて


強かな瞳は律呂を整えて燦爛の時を待つ
満ち足りた寂莫 竹箆の香り
呼びかける声を解き放ち
渇望を無上の喜びへと昇華する

わたしは今、無碍に包まれて
ただ一人歩哨に立つ
飲み干した暁のように



【青】
              K・K

紺碧が崩れ
蕗の薹が円蓋型の海泡石を作る


結晶化された、鋭角の文殻


行動の前後に消された鼈甲色の体制は、どこへ行くにも溶けては溶けて
(旋律を記録する、日にち、の反射板を噛み砕く)
隔絶を予期するあの鳥の御神を静臥すべき、


波間が紛れ込む(それを見る、誰か (という、誰か    ))


ただ覆いかぶさる、明確なざわめきを持ち
音節を石膏が固め
振り鼓の小葦切が、つつ、つ、と、 、
一度きり
睡蓮が群青を
感光紙に染み込ませる


見果ては片影に掻き消され
  (   (不可視、の夢想が退 廃 していくにつ、れ、)
その煽情を優艶にも言葉へと進行していく、
夙に、連日は(連鎖の跫音で植え付け )その幻想を、
つかのま
真菰の下へ埋めて、醒めて、


折れる、波状の芙蓉峰
劣化した後も同じく(石灰に濡らされ)
零の鮮烈をひたと見つめている



【夜明けの連立】
                K・K

墝埆に滴れ落ちる、煉瓦の細やかな硝煙
片時雨の蠢く眩暈を滲ませ
弾けていく
    密度の方位


精確な連動を呼び寄せ
嬌艶、な、数奇  と名乗る、たったひとり
盲目へと零れ
 (蛋白石の禍福を前提に
  長い、その放物線さながらの、合意
巴を伝う蜜の甘さに
蓮華は密やかな痙攣をおこす


癸に向かう吾亦紅
阿羅漢の慟哭を流す、流す、
ひとたび

彩雲


 相槌を潜ませて( み、なも、行方の 知れぬ  )


浅い楕円は
( 犇く所作の)晦冥、を、
贖える ま で 
、開かる細微となる(終幕の晨鐘が、今


滑りゆく明暗の最中、
半減し、朗詠し
       交われぬ白夜
             百花の廻る、帰途に濡れる



【ピエタ】
                阿部嘉昭

降架!    ――砂礫の払暁をさまようわたしの層状紋を、
胸乳へのその汚辱のべえぜで、
                平叙へと戻すな  産土、
    えやみの闇肉に沈む おまへ、摩倶陀羅
   涙眼で下方から上に救索を垂らす重い矛盾よ

            ↓
心奥で割符が噛む だけの この(アンドロ)/ギュノス)の
    蟠る索がいま猥褻な浚渫で解かれようとしている
曇る 裸身が 翻って 光の 裸身と なる 前に 無 無

  追慕のなすがまま この長征を無惨に昏れのこらしめよ
  ((ここでは羊歯軋み  龍涎の馨る森には歯も遍く
この藍甕に喪宙さえ充ちて、、  、口も朽ち 鼻 放たれる》
            ↑

(絶命の窮みで)
   (暗示をかけられたのだ、))
        //死なずにただ洟垂れてをれと
だから【追慕のなすがまま】 
            この身に餞別を) 導か)しめよ

            〇

         うづゆるやかに
        わたしを まくもの
         てえぜとしての
           【別】
          別の直面が
         別れも しめす

         ふたみが割れる地、
           許斐!

            〇

……………………砂礫では水分に血迷ってきた
くちづける唾液の…………わずかな湿りはかくも冥い…………
「地点」で水を分けよ………仝仝……やがて再会する日まで

  水は分かれるだろう
  許斐!



【死出】
             阿部嘉昭

この一個の、冬扇夏炉。
 陶潜を気どろうとも
  盗泉の罪が消えず
   登仙すら遠くして
    ひたすらに東遷してゆく。
     彼方には灯船がみえた

     渇 喝 褐 活。
     撲 僕 卜 牧。

浅才も善哉だろう
 千歳を剪裁についやして
  鮮菜には顔をうずめた
   浅黄のわたし
    跣行のまま閃光に出会った
     行き交う旅びと みな染工。

     周 州 囚 愁。
     宮 旧 球 窮。

繁木のさなか
 世を煩った私隙を
  ことごとく刺撃する
   確乎たる詩劇
    詩は自剄を逃れて。
     耳刑の響きも懐かしみ。

     汪 懊 往 王。
     筝 奏 蒼 葬。

やがて水霧がおおう。
 酔眠は水明にいたらない
  掛け違えられた翠嵐として
   衰齢してゆくのだ、
    この推問に推問を接いで。
     ――垂露。――垂露。

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2007年06月27日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)












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