秘められた生4
一点だけの恥しさなどありえない。秘密はむしろ径路の露呈にやどる。みだらさが泣き声を経由してかなしさへときわまってゆく個別性。性愛中の舌のうごかしかたが授乳下にあった幼児期をよびだし、さみしい生の過程や質が一挙に現前すること。むろんそうした量的な秘密こそが、性愛でのひとの美質なのだが、「一点」にとどまらないながれは、一体性を逃れやすさにむけてさえ拡張してゆく。Y字路に立つような感慨も、そこをV字形に遁走しつづけ、こちらへ近づいてこない者の運動、その蝙蝠のうすやみを想像させる。拡張は記憶に息づく存在の輪郭のうすまりとも化合して、「そこにあったこと」が「そこになかったこと」をふくむ融即の契機をつくりあげる。そういうものだけが生の価値だとすれば、恥しさは絶大な効果をふるっている。つまり「そこになかったこと」だけがつよく「あった」というのが恥辱の本質で、そのことはひとの径路の線型性にこそ現れるのだ。これが生のすべての秘密。川べりをあるいてゆくようなそんな性愛がこのみだった。