秘められた生9
宙にうかぶしずくがひとのすがたを逆さにおさめるように、ちいさなおもいでを相手へのひとみに置いた。それからその日を別れた。うしろ向きですすむ背後にこそあすがあるといわれ、相手のうしろすがたもなんとなく過去からふりかえっていた。おぼえることの倒立がそうして一回ごとの出会いにあったが、たとえばその輪郭をもっと撫で、自分の手と水のむすびを固めてもよかった。けれどもそれをゆるさないように、ならぶわたしたちはいつも旅装で、たがいにひかりあるくあいだを、はやすぎる何かの移動撮影にゆだねていた。