賀状原稿
以下は今年の賀状原稿。例年どおり、女房との抱擁形の付合をしるした。
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恭喜發財
甲午元旦
笑ひさへまだ薄白し一日目 嘉
汝が人中に歯朶飾りある 律
初声はむしろ葉粥を経めぐりて 律
椀もつことも本懐とせり 嘉
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以下、簡単な解説――
発句中「一日目」は「元旦」をぼかした。それで季語化を逃れた。ちょっと翁じみているかもしれない。
脇句中「歯朶〔しだ〕飾り」は正月の鏡餅などにもちいるもので新年の季語。女房殿が、歯朶飾りをぼくの口髭に見立てた滑稽句のおもむき。発句-脇で、炬燵を囲んでいるような隣接的な空間性がある。「汝〔な〕が」の呼びかけが良いのかどうかはわからない。
第三句中「初声〔はつごゑ〕」は年が明け初めて聴く鳥の鳴き声の意で、これも新年の季語。雑煮とすべきところが葉粥となって七草粥の時期まで時節が延びたほか、白粥に散らした葉の緑そのものに、やがて来る春の林をみるよう。脇-第三はすごくきれいな付で、「て」止めで第四句の展開を窺っている。
その第四は無季。汁ものの椀を手で支え、その手もまた椀形で、めぐみをいただくすがたそのものに乞食の風情もあって…というように、新春の付合にしては釈教じみた辛気臭さが滲み出しそうだが、句意の朦朧がそれをとどめるとかんがえた。この第四句には、去年のぼくの詩集『ふる雪のむこう』の一節が反照している。
毎年、この手の賀状を出しているが、どの程度理解されているかはわからない。新年から謎かけされて迷惑なかたも大勢いらっしゃるだろう。とりあえず自註してみた