海鳴り
【海鳴り】
書くことがなければ滅んでしまう。
それほどの、ただの移ろいだ、わたしは――。
書き終わりにむけてうなされたゆびは、自己嵌入的ではあれ、性愛的なあかしを凹部のきわみからたぐりよせる。だれのゆびか問うことは漂白する。穴の内部のほうが先験的で、その影ではゆびの個別がおとろえるためだ。こういえばいい、ふたたびあらわれたときがゆびなのだ、そのふたたびでは書くこととゆびとが泣きわかれ、ゆびのみを事大視すれば、書いたこともひとたび穴をみたした、ただの浪にすぎないのだと。いつでも書くことと書いたこととが似ないのが移ろいだが、これも形状的には凹凸の弁別に帰結する。かくて洞穴だらけの磯を、船上からの視線がゆききした。
わたしは滅ぶ、けれどこの形式の穴は滅ばない。
海鳴りへの讃とうけとられてもいい。