燐
【燐】
引用したら助詞が化けていた――そう気づいて悄然とすることがある。詩の行などじつは書かれてはおらず、むしろそれはかずかずの樹間で、手許に筆記するときにはさながら燐を写していた、だからそうなったのだ。ひらがなが女影で、化けてたたったといういいかたもできる。それいがいになろうとするものが、こころひかれるおんなのふぜいだから、構文もくりかえし変成し、あおじろくみだらに炎えた。おもえば詩がながいことわたしをだめにしていた。ものがかんがえられなくなって、写す手と眼のれんかんが、注意が、ひらがなよりもやわらかにくずれていった。なるほどひらがなはすべてのあいだをつくりだすが、そのあいだこそを燐とおそれたのだった。