浅瀬
【浅瀬】
みはるかすひろい水をうすすぎる浅瀬へ、いちまい張っただけのそこを、ゆきわたるひとりにおもいおよぶ。あなうらはたしかに底をふんでいるのだが、鏡上をあるくふぜいのように縹渺なのは、きっと泥のおよばないあなうらのしろさが、みずとみなそこをしずかに攪乱し、とうめいがいくえにもひらたさへわくためで、みえるもののわずかな紋をもってにじまされたそのひかりが泣けてしまう。うごきが断ち切られて前後のない記憶となる、すなわち時間そのもののわずかなしぐさとしてしかおもいうかべられないひとの移りには、貌にあたるものがなく、ただくうきととけあいながら、もともとのわたしたちが藻だったことをあけがたの瀞にささやくのみだ。けれどうまれるとおくの岸へといういがいは湛えにすぎない水の方向をきわだてながら、全身のどこかにあるだろう気疲れがどこへむかったのか、みすえたはずなのにその爾後ひとつすらおぼえていない。