林立
【林立】
墓はない。かならず詣がゆきまよう。なぜだろう。もともとくらいけむりだったそのひとには骨を想定するのもむずかしく、ただ手さきがゆびとなって枝分かれをし、それなりに音のようなものがふえながら、けれどもめぐみがちいさくて、たばこを吸う手つきにかぎられていたのをおもいだすのみだ。のぞみどおり肉はだれしれぬ土地で腐っていっただろう。ある日はそれでも息のあったはずの方角へあたりをつけて、失調に似た詣をする。するとさきの枝についてのおもいがみちびきとなる。世界それじたいが墓といわないまでも、あらゆる林立がすでに墓のよすがとなっているのではないか。くうきにひとりのおもかげが埋まるとはおもえない。かぞえられないものとともにそのひともいる。これがのぞむかなたへほんとうにきざす林立だ。北へむかって逸れている並木をつたいあるいてゆく。