美貌
【美貌】
あるかたちにはそれなりのおおきさが予定されているものだが、その予定がくつがえされてバカげておおきいばあいには、これがおばけとなる。こうつづって、たとえばががんぼなどをおもうのだが、この北地ではついぞそんなばけものをみたことがない。ががんぼがはりつく柱すらいまの住まいになく、すでに幼年期を鉛直に建てあげていた柱のようなものがかぎりなくとおい。あらたな美貌をこねようと、さきの夏旅で眼をこらすと、むしろ名もしらぬ原初的な花のかたちが、ちいささとなって奥行をかすかにつらねているのにでくわした。かんたんなことだ、ちいさくなるためにはとおくなってゆけばよく、それがばけものからにんげんへとかえるときの法なのだった。ひとは加齢とともに水平になじんでゆく。