樹下
【樹下】
樹下に棲むという、置きどころの理想がある。「じゅか」とも「こじた」とも詠まれていい。そこではかたちの蔭の庇護下にはいり、かすむことが尊ばれる。同時に樹下のひとは枝を透かして樹上やそのさきの空をみあげ、まなざしのうつりによってさだまらない視差が、身どころか座そのものとも知るだろう。みあげが実や星をみいだしてまるくふくらみながら、はらわたのような内らに交錯がきざし、それで身のなかをゆくホムンクルスにしたしめるのだ。からだのなかの部分によって身のぜんたいもちいさくなる実在の法則。風雨をつうじて樹木に異なりのあるときには、身すら音や髪に化ける。やがてきえるものの蒸気ともなる。けれども枯枝が雪をいただくばかりの樹のいまでは、かたちの網をみあげる樹下が想定されても、その座にもはや再帰の名残などない。