井口奈己
昨日は一週間ぶりのリセットデイ。一日中、録画済の番組を観るなかで、一月三日にOAされた、山崎ナオコーラ原作、井口奈己監督の『人のセックスを笑うな』も観た。どことも明示されない北関東の「場所の停滞感」が逸品。ロングショットでは風景の奥行に山並みのせまる構図が多々使用される。それと「ひとがふたりいる構図」をどう撮るかが模索され、それが手前と奥行の同方向に顔を並べる構図へと完成されるときに唸った。いちおうは成瀬メソッド。
撮影は風間志織作品などの名手、鈴木昭彦。撮影と録音の双方を手掛ける測りがたい才能だ(鈴木はこの作品では撮影)。永作博美、松山ケンイチ、蒼井優、忍成修吾、それぞれに自由な発語をゆるしているようで、ロングによって聴こえない科白が数々仕込まれる録音設計も過激だった。
それにしても井口監督の「ぎりぎりの説明責任」と「うごきのとらえかた」が面白くてしかたがなかった。ラスト、忍成くんが蒼井優のくちびるを盗む前後でのふたりの俳優の立ち姿の生々しさも逸品だが、うしろに蒼井優を乗せた松ケンのバイクが駅前をぐるぐる走りまわるのを俯瞰気味のロングショットでとらえたのち(最後はロータリーでの回転をやめ、一定方向が選択される)、焼き鳥屋でガラス扉(引き戸)越しに酔いつぶれた松ケンの後姿がみえて、おかみと話す蒼井優がロングで捉えられる。そのあとは店の入り口手前に出て、おかみの指さす方向に蒼井優がうなづく姿(ラブホの所在確認とおもわれる)。さらにはそのラブホの廊下にジャンプカットされて、泥酔した松ケンを引きずる蒼井優となる。このふたりのうごきが異様に(映画的に)おもしろい。ついには部屋内。ダブルベッドに材木のように伏臥する松ケンのからだを踏まぬように、蒼井がベッド上でジャンプを繰り返し、それで切ない焦燥感が出てくる。なんという演出だろう。すばらしかった。
女房に確認すると、二時間三十五分の放映枠でも、松ケンと永作さんとのラヴシーンはカットされていたようだ。とりあえず二月八日からはじまる井口監督の新作、『ニシノユキヒコの恋と冒険』、大期待。こちらは原作が川上弘美です。
2014年02月02日 fearon URL 編集