骨折
【骨折】
骨折したひとのギプスのかいなを天体みたいだとなであげる。連続した一本が二本になった刹那には、夜空が流星によってふえるのと似た視界があったのではと訊いてみる。それから損壊のかたちをたしかめるためわずかな放射能をあびたとき、北極上空を擦過したさむさがうまれたのではないかとも想像してみる。これらのことをおもえば骨折とは比喩、からだにうまれた俳句かもしれない。ほねは「しらほね」をあらわにするまえは、瞑目想像の自在をデザインするからだのなかの野道だった。まやみにてじぶんの左腕をそれとさわれる、からだの内向方位もそんざいしていた。そういう樹木にしげられた鍵盤がいっときくずれ軋轢音をかなでる楽器化が腕の思想に起こっている。もちおもりが荷物ではなくからだそのものからたれさがるのは炸裂が内部へひらかれたためだ。石膏の円筒が骨と肉との輪をまるくかためて、きみは香気ある宇宙図の断面をかかえた。なんという凍傷、蛍袋だろう。ひゆ、ひゆ、骨折はそのようにからだからとびたつ薄羽によってひえながら、そのめぐりを夢のうすむらさきにまでしてみせる。