奄々
【奄々】
おくふかい山中に「島」や「浦」のつく地名のあるのはあわれだ。「縞」や「裏」からの転移ではなく、川のなすじっさいの形状からの由来だろうが、谷底をみおろす眼が、空にあやうくふれる水をとらえたうすい気配をかんじる。最少の海がそれでもとおさを経て網状に地のあいだを浸潤、気息奄々となっているとする見立てには、地上とはなにかという了解もある。それはべつの脳なのではないか。在るものをそれいがいへと変える地形連続、くぼんだことによるうつわ。だから水上をむれとぶあきつも、そこでは滅多にゆきあえないおんなの透きとおりをつたえる。それらがどこで死ぬのかは地名や水のはじまりとおなじく、ほとんどわからない。ゆうかげが中腹につかえて、島も浦もくらい。