飴
【飴】
ゆっくりと口腔からからだの奥へまねきいれても、胃の腑にはなにものこらない――そんな錯覚をもたらして体内をかげろうにかえてゆくのがその飴だった。それは口のなすことをくつがえすという意味では接吻や喫煙の代用品で、しかも形状にはこどもの玩具のようにおもえる華やぎがある。とりわけすきとおる球体がこのみで、あまみと気泡のある内宇宙がふしぎだった。さいごに球体は舌の天秤皿のうえでうすさをきわめた剃刀となる。もう載せても測れない。じきに口腔が血まみれになるこの盲目の予感こそが、眼にするものすべてをしたしい眷属へとかえた。みやれば夕陽だった。