春
【春】
埒をつくるのではなく、棒をつくるように、一篇の詩を完成にむけ運ぶことがある。主語をのっぺらぼうにするのみか一人称省略でなおさら隠し、たくさんの動詞を一方向へゆかせ、入口から出口までのひかりの通路とするのだ。おどりまいあるきかがむ。きえた主体のむこうに草があり、朝などはなごりとなったからだのありどころを土手にすらながす。ひとが死ぬこと、それをおもいだすのはなんの洗浄なのか。ひとをのせるはこべに遅速の区別がない。ふかれるものはひかりにぬれて鎖でつながり、そのながい列を水にあるとみなし、やわらかくゆらす眼も発生する。かかげられる棒をかわりにもてと、詩を献る春がそうしておとずれる。