呉天明監督追悼
【呉天明監督追悼】
中国第四世代の卓越した映画的知性、呉天明監督が逝去されたようだ。ずっと新作を待望していながら個人的には『變瞼』以来の作品に接することができなかった。体験上の痛恨だ。
一般には第五世代初期の、厳格で暗喩的で階級的な作風を呼びこんだ呉監督のメルクマール、『古井戸(老井)』がつよく回顧されるだろう。ただし僕じしんはその『古井戸』よりも、観音信仰、伝統演劇、子供の救済をひとつに束ねた、説経語りのような、のちの『變瞼』のすばらしさが忘れがたい。これはアミューズ配給で一般公開された。僕はその劇場パンフの編集を手がけ、監督インタビューをさせてもらった(そのパンフにはのち『キネマ三国志』に収録された平岡正明さんの驚くべき博覧強記の長稿も掲載されている)。
お会いしてみると、呉監督は作風どおりの、映画的知性と民俗学知性とが渾然となった、鷹揚で中国的な「大人」だった。「水」の主題系についても自覚されていた。その他では『變瞼』公開当時の第五世代の帰趨について、きびしく批判をなさっていたのがつよく印象にのこっている。それなのに弟子筋にたいしての愛着がふかかった。
いまはただ合掌