歌謡
【歌謡】
かぐわしさゆえまぐわいは遊民のなかで神業とされ、土地や多神をうむもといともなったが、それら神由来へさらに歌のまざりこんだのは、まぐわいながらの口吸い、このせつなさからだった。くちびるとくちびるをあわせ舌が舌をなめ、かたみのうごきをほそくぬらしつつむとき、さきざきに鳥のかげが射す。これはことばと息とを溶かす気と水のからまりで、そのさがよりして歌となぞらえられるほかなかった。かくしどころをまじえれば多神が土をわりあらくもたげるが、それへ歌の川をながしたのはもれてしまうあえぎではなく、ことばにしてことばでないこの口のべつなるあそび、かたみからたましいを吸いだしもするくちよせだった。ひとらは枕く。閨よりもさらに木々のあいだにこそくりかえしがあるとおもい、やがては枕なしでもくちびるをひびかせて、とおい空間をつかみだす。