つばさ
【つばさ】
あなたの寝るさくらはあなたのつばさ。土と背のあわいがあおいしろさで散り敷かれ、気絶はふかさに死斑する。障と瘴、あかるむ樹下はあかるくよどむ。九〇の台には素数ふたつ(九一、九七)、たしかめる間隔のそのまえに、あなたの瞑目のなかはやわらかく燐寸で林立してしまう。もう青梅線は復せない。内部のつばさがゆっくりと名の苑へ一致してゆく。
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八高線の車窓からもみえるご自宅の桜桃の木や、母堂ゆかりの地の白木蓮につき、神山睦美さんがFBにうつくしい文章を書いていらした。そこに、往年読んだ中村苑子のエッセイについて書き込みをしたのだが、余韻がうえの詩篇になった。
その神山さんだが、あたらしい「現代詩手帖」(四月号)には、『希望のエートス』刊行記念として去年暮、池袋ジュンク堂で催された大澤真幸さんとの対談イベントの採録構成が掲載されている。全篇すばらしい対談なのだが、雰囲気の一端をつたえるために神山さんの金言をいくつか抜いておこう。
《希望はもつものではなく、あたえられる。誰にあたえられているのかというと、「いま、ここ」にはいない誰か。私たちを超えたもの。それは「未来の他者」というふうに言えないだろうか》
《伝染するように他人の苦しみに打たれるときには、「未来の他者」の悲しみや苦しみにも打たれている、それが共苦〔コンパッション〕ということじゃないか》
《待てないけれども待つことは私たちのモチーフであり、エートスなんだ〔…〕そのコアのようなものを失ったらもう小説だろうが詩だろうが、それは文学ではないんだということを内省しなければいけない》
《未来の他者ということを考えた場合、連帯する言葉があるとしたら、これはたぶん詩的なものだ》
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おふたりの対談記事が終わった対抗頁には、松尾真由美さんによるぼくの詩集『ふる雪のむこう』の書評が掲載されている。適確で謙虚で、しかもそのことから読者を対象の繙読にさそうみごとな批評。ぼくの生涯でいただいた評のうち、一、二をあらそうほど嬉しい文章だった。書評じたいがうつくしい。松尾さん、ありがとう。