花見
【花見】
すかしみると、奥行まで花が茫洋とひろがり、それがさきゆきとなるようなながめ。この世ははじめからながめにすぎないとあらためてあきらめてみせるのが花見のこころで、こじたをたずねゆくからだすらやわらかな樹の息になってゆく。あたまを先祖に似せすこしとがらせて花見びとみな、さくらの瘴気をあびて、壮大な往来をつくりあげてゆく。おんなもおとこもかおはちぶさになり、しろく咲くこまかさとひかりあう。そこに国とよばれるべきものがけしきのまぶたでめくれているのだからさらにめでたく、みおろすわたりや鬼の眼をおもえば、咲きあわすところと人波までもがゆるやかに北へ移っている。ぼうだいな花の蜜が川なして民族とともに地上をうごいているのだ。焦げて死ぬ者数名。あすはさいごの花見、とものみなかたり、いつもそれが最期とひびくのが、枝によるさくらの国のささえだろう。痙攣する北にいて、からだに花をまぜるよがりの刻をさきぬれて待つ。