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春分後 ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

春分後のページです。

春分後

 
 
【春分後】


札幌に移って、日照時間の節目により敏感になった。なにしろ緯度がたかいので、東京にいたときとは感覚がかわる。日長の最大恩恵をうける夏至では朝日が午前四時にのぼり、夕陽が午後八時にしずむ。つまり春夏は異様に日照時間がながく、活動を推奨されたような、得した気分になる。からだもうすく、かるくなる。ぎゃくに冬至では朝日が七時前までのぼらず、夕陽も午前四時に早ばやとしずんでしまう。この「夜ばっかり」状態はたしかに刑罰のようで、からだそのものが重いさみしさを抱える要因となる。北大生は自殺比率がたかいので有名だが、夜の物量におしつぶされた下宿生が冬季に命をおとすパターンが多いのではないだろうか。むろん雪のつくりだす閉鎖性もおおきいだろうが。

高緯度地の日照時間にあって、いわば不幸から幸福への転回をはたすのが、春分なわけだ。じっさいに春分はからだの感覚にあかるい結節みたいなものを透明状態のままあたえる。ほんらいなら一年の循環性は春分日でことほがれ、祭などがあってもいいのかもしれないが、まだまだ空気がつめたい。四月なかばになって路肩に積み上げられた雪が完全にきえても、まだ札幌では植物の自然開花がいっさいない。いまは「花なしのヘンな温順時間」なのだが、さすがに日照時間の伸長を日々にかんじ、気分がすでに春めいている。宙吊りの春情。酒場に繰りだす動機がさみしさからうれしさにかわる。これで柳の枝などにさみどりが芽吹くと、一挙に眼底があかるい春色の歓喜でみちることになる。春分後の眼は「いま」ではなく「すこし先」へ向いて、その時間性でこそかがやく。そこでは奥行きが仄ひかっている。
  
  

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2014年04月16日 日記 トラックバック(0) コメント(0)












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