それ
【それ】
ひとのちかくで死ぬために
くらくおもたいばしょをぬけ
おもむろにここへたどりついて
しかもけはいすらみせてくれない
それもひとだろうか虫だろうか
もともと色のないきらめきの水に
ひとつであるはずのそれが
みえないままみちあふれている
あかるいまぶたをあげると
きらめいてみえるそれのまわり
だからそれも日のはじめの
まぶたのしたにひそんでいたと
ふとおもいこんでしまう
たちどまってもそれの名を
かたることなどできない
なまえそのものが声の穴を
こころなくくぐりぬけてしまい
かわりにやんでみせるのだ
ひかりの底をしめすつもりか
うすく後ろ姿もないそれの
たまに正面だけがくらむ