漿
【漿】
とつぜん家から風呂場がきえた
湯浴みするおんなをけそうとするうち
みずから家風呂がとけてしまった
それでぜんたいに欠けができて
これらが反響して髪の家となった
かけ湯のくりかえしたぎるもの音が
いまだに北側の紐をゆらしている
けして階上へとみちびかない階段が
家そのものが横にたおれたと気づかせ
あたらしい湯船も厨にできている
こんなのどを研いでとぎ汁をまわし
しろい漿がからだをもれるのみだ
つばさあるからだをあらうのではなく
おんなもただ漿をながしていたのだろう
いれものであることにすごく飽いて
踏み台となるよう家をめざめせた
けして一歩は三歩にならないが
三歩が一歩になる超越はやがてくる
だからもろともにおんなと風呂がとけ
しろい漿の噴口をわたしへのこした