衣
【衣】
頭部のない首から腰だけのトルソは
けして衣服を着ずにそれを吊るだけだ
おのずから斬首の記憶にまどろんで
とびたった首がさいごに視たおのれを
かたちぜんたいとしてさだめている
それゆえトルソの方向はまぢかへの俯瞰で
これが軸木で縦にささえられた前なのが
みることにまつわるふしぎともいえた
そうよんでみるのだがかれの胸板は
つつむ衣服をまぼろしのように交換する
にくたいがきえスーツだけの浮くうごきが
せかいの橋がおちるまえのながめで
トルソはおのれにそれをいわば上映し
たそがれのみせる一滴たろうとする
ひとつの落陽がひとつの斬首であること
きょうも首は服をのこし雪上へおちた
きょうもからだは服をのこし雲へきえた
語るにつれスーツもうすくなってゆき
ころもがゆれるだけの域で性が立消える
トルソでは消滅がはだかになっている