睫
【睫】
めはながちっているだけなのに
それに物量と方向とがともなって
貌がもようとなり精神ともなるのは
にんげんにあたえられためぐみだろう
軽重がかわるのを目睫にみるのがすきだ
このとき方向に翳をたすまつげや
貌のてまえにふる雨にも魅せられる
とりわけずっとふってきた雪が
天〔あめ〕と同音の雨にうつるならば
めのまえにあわいひろがりがうまれ
めはなすら花にとなりするなにかだと
かたちの不定じたいをことほぐ気になる
おなじように紺々としたいろでも
ころもは外とかようかるさにゆらぎ
まちびとのさだめがたくなるのが
目睫に紗のかかる花眼のながめ
貌をささえているのが後頭部だと
ぜつぼうならずともわたしは知るが
ならばまつげのあるのがふしぎな
はるのふくらみをおのずからはこぶ