田中宏輔日記にまた書き込んだ十首
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窓外は霏霏と卵ふる破裂音なくして地には緋絨毯おもほゆ
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青飯を霞みて包むオムレツは孤崖にありし涕泣の月
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くるりんと卵より声聴えきて少女も星も初夏をくるりん
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蝶発てば城楼ひとつ崩れさる卵の夢はいづくに置くべき
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両の掌に卵をもちて風に佇つピサの斜塔となる玉響に
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卓上の卵の立ちも斜めにて世界の斜性はつか忍び来
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一周の択び無限にあるものを卵と呼べり周たしかにて
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捧げもつ卵殖ゆる間の梅雨寒は暗庫にいかなる雛も殖えざる
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過ちて人身(ひとみ)に巣食ふ白雲は人肌をなほ空に変へたり
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をみならの立小便はゆふぐれに湧く常闇をしばし諌めき
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