「サブカルの海」第15回掲載
本日の北海道新聞夕刊にぼくの「サブカルの海」の連載第15回が載ります。カフカが弟子ヤノーホに語った、「真にリアルなものはリアリスティックではない」を前振りにして、以下を串刺しにしました。
●今年4月から5月、NHK土曜ドラマ枠で放映された、横山秀夫原作、たぶんTVドラマ史上屈指の傑作といえるだろう『64(ロクヨン)』。
●今年4月放映のETV「日曜美術館」でのサブカル型/細密型日本画家、山口晃のドキュメンタリー。
●2012年7月放映のおなじく「日曜美術館」、スペインの写実画の伝統をもとに具象表現の究極にゆきついた特異な画家・磯江毅の特集。
『64』でのピエール瀧の実在感、横山原作ならではの警察リアリズムの目盛の細かさは一部で話題沸騰でした。語り口の序破急もすごかった。俳優個々の演技も。また山口晃は朋友・会田誠とともにファンが多い。
そういう意味ではもしかすると静謐な静物画、裸体画で鑑賞者を不安定な深淵へといざなう磯江毅がマイナーといえるかもしれません。ここで画風を諄々と説明するより、気になったかたはぜひ「磯江毅」をグーグルで画像検索してみてください。きっと何かが変わるはずです。
『64』といえば旧知の瀬々敬久監督も映画化にいどみ、来年に全国東宝系で公開される運びになっています。先ごろクランクアップした瀬々版は、ピエール瀧の代わりが佐藤浩市。TV版は1時間枠×計5回でしたが、映画のほうは、ちかごろはやりの前篇/後篇公開となるもようで、長大な横山原作を容れる器のおおきさという点では、TV版と遜色がない。脚本協力には井土紀州の名もクレジットされていますが、メインは久松真一のようです。このひとはTVの横山秀夫原作の2時間ドラマをずっと手掛けてきている俊英です。ちなみに、TV版の脚本は、森田芳光監督『39 刑法第三十九条』など、緻密な構成力で知られる大森寿美男でした。
瀬々版の音楽はどうなるんだろう。TV版の音楽は大友良英でした。『あまちゃん』でのポップ・スカとはちがい、『64』での大友の音楽は改造ギターを大友が自ら弾く緊迫感あふれるオルタナロック/フリージャズ系で、じつにシビれたものでした。
おなじ原作をもっての「NHK土曜ドラマ」と「日本映画」の対決はなかなかに熾烈です。ぼくの判断ではこれまでの勝敗は以下のように決しています。「『魂萌え!』→土曜ドラマ>映画」「『八日目の蝉』→土曜ドラマ<映画」「『紙の月』→土曜ドラマ>映画」。瀬々監督のプレッシャーも並大抵ではないかもしれません。