ひだ
【ひだ】
ふと耳にしたひびきが
たとえなりゆきのわからぬ
異国語だったとしても
一節がキャニオーンときこえれば
うたのぬしはあの世まで
おおくの谿をかぞえてきたのか
おもいえがきも夜来の雨で
ぬわれてしまうあのやま道に
かたむけてひとをこぼした馬車を
それでもうたのぬしは馳せおろして
荷とした草をここへ匂わせるのか
ゆくてにかさなるあれら谿は
ふかくすっぱくえぐられていて
老いびとの歯ぬけた穴のよう
こえがひとたびキャニオーンと
おおかみをうみなしたのも
ぬしから人のきえる前後だった