一本
【一本】
まぶたふたつがおもくさがり
なみだぶくろが濃ゆくなる
くりやに立ってじぶんの手が
ひくさを掬うのをながめる
前方にたかさあるのをおぼえず
おれまがってゆく感覚がある
そびえているはずのものも
よこたわっているとおもいなし
ねどこへはこびいれてゆく
ろくなものをゆめみないまえにも
ひとの立ちすがたがすこしある
まぶたふたつがおもくさがり
ふうけいが檻のむこうとみえて
蝋齢にはそれでも縦にのびる
なにかの揮発へこころうばわれる
まといなくはだかであることは
ひとの死をおもいいたらすと
わかいむすめをわるくもちいて
かんがえにわるい信をいれる
ねむる寸前でくずれること
ならぶ空き壜のようにせかいは
うちがわだけでできている
核心が澄んでありつづけるのは
まぶしさだけでみたされた
へだたりがかつてあったため
うばう挙にまで出なかったのは
そこへ刃むかうふるまいが
根拠をうつろにしたからだった
ながければながいほどきれいな廊下
線になろうとおくゆきをすすむと
くらさすらふと発散している
どうぶつだったんだとふりかえる
くるみひとつをもってゆきつづける
ひとつをためらわずつたえようとする
蝋齢ではそれがみずからへむけられ
そんざいの不動におちついてゆく
うけとめるためのなみだぶくろ
かおの奥からそれをひく涙骨
うごきとしてはひきしおがつづいて
あらわになった川床もかおにある
くるみがてのひらからころがり
ないものをたばねるだけの
たった一本となりねむるのだ
そのためにおのれをまやみにし
したしたしたのひびきをきくのか
廊下でねむるふかいわざわい